小説 川崎サイト

 

冬場の幽霊


「寒くなってきましたなあ」
「引き籠もりがちですよ」
「でも、今日は出てこられた」
「出るのは年中出ていますよ」
「じゃ、引き籠もりがちとは」
「余計なことでは外に出ない程度です」
「たとえば?」
「煙草やコーヒーが切れたとき、コンビニへ行きます。それだけの用事で行くことが多いのですが、まとめ買いします。すると出なくてもいい」
「外に出るというのはコンビニへ行くということも含まれているのですな」
「そうです。一日に何度か外に出ます。その回数を極力減らしています」
「それは冬場ですね」
「いや、真夏も減らしています」
「暑いからですか」
「寒いよりも夏の暑さの方がこたえますよ。こちらの方が実は外に出たくない。夜ならいいのですがね。昼間は冬よりも厳しい。まあ、暗くなってから涼みがてらコンビニへ行くこともありますので、結局出ています。数えたわけではありませんが、冬の方が外に出る回数は少ない。そのため、これを引き籠もりがちと言っているだけです」
「はいはい。分かりました」
「あなたは?」
「私は夏はいいのですが、寒くなると外に出るのは半分以下。三分の一ほどになりますよ」
「そうでしょうねえ」
「暖かいところから寒いところに行きたくない。これは部屋を出る前から分かっていますからね。まあ、用事があれば別ですが」
「朝の散歩とかは」
「しません。冬場は風邪を引いたり、身体を冷やしたりしますので、逆に健康によくない」
「こういうのは幽霊になってもそうなんでしょうかねえ」
「はあ?」
「身体がないので、暑くも寒くもないはず」
「いや、雪が降っていれば寒いと感じるでしょ」
「身体がなくても」
「そうですよ」
「寒い国に出る幽霊は厚着でしょ」
「あれは、普段着ているようなものを着て出るためでしょ」
「どこから出るのでしょうねえ」
「さあ」
「いきなり出るのでしょうかねえ」
「さあ、外に出る幽霊は、その辺りにいるんでしょ。最初から屋外に。通り道とか、野原でも、山でも川でも構いませんがね」
「まあ、幽霊も昔のように、幽霊っぽい姿じゃ出ないのでしょう」
「はあ?」
「時代によって幽霊の姿や出方も変わってきたように思います。たとえば経帷子で、三角の布を頭に当てたような姿が定番でしたが、逆にリアリティーがない。それに、あれは土葬時代ならいいのですが、今は全部燃やしてしまいますからねえ。だから、今の幽霊は普通の服装で出るようですよ。見たわけじゃありませんが。そして、それが幽霊かどうかが分からない」
「バーチャルではなく、リアルになっているのですね」
「まあ、それは見る側の都合でしょ。見る側が幽霊の姿を変えていったのです」
「あなた幽霊博士ですか」
「ちがいます」
「どちらにしても寒くなると出るのが億劫になります」
「その話でしたね。幽霊も寒いと引き籠もりがちになったりしそうですよ」
「はいはい」
 
   了



2016年12月16日

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