小説 川崎サイト

 

サンタを見た


「あのクリスマスの日は、まだ子供だったので、しっかりとは覚えておらんのだが、サンタを見た」
「三太という人ですか」
「違う。サンタ、クロースのお爺さんじゃ」
「クリスマスはサンタだらけですからねえ」
「それは店屋とか、賑やかなところだろ」
「その場合、結構若いサンタですねえ。女サンタもいたりして」
「今年もコンビニへ行くと、店員がみんなサンタクだった」
「はい」
「ところがわしが見たサンタは本物だったのかもしれない」
「子供の頃なので、いると思っていたのでしょ」
「いや、それはもう分かっていたよ」
「そうなんですか」
「夕暮れ前で少し薄暗くなりかけた頃でな。家にはわし一人。家の者は買い物に出たり、父親は会社なので、こんな時間には戻ってこない」
「そこにサンタが」
「当時夢中になっていた月刊の漫画雑誌があってな、その付録でサンタとソリとトナカイを組み立てる紙が入っておったので、それを作っていたのじゃが、暗くなってきたので、電気を付けようと立ち上がると、窓の向こうにサンタがおる」
「窓の向こうは何処です」
「庭じゃ。家の裏側。そんなところに入り込むような人はいない。町内の人でもな。わしはすぐに分かった」
「サンタの正体ですね」
「うちの爺ちゃんだろうと気付いた。この近くに住んでおる。大きな袋を背負っておった。爺ちゃんは髭などは生やしていないが、きっと付けひげだろう」
「はい」
「見てはいけないと思い、わしはすぐに身を伏せ、窓を見ていた。そこからプレゼントを入れてくれるのかなと期待した」
「いいお爺さんですねえ」
「ところが、いつまで待っても窓は開かない」
「カギは」
「かかっておらん」
「それで」
「かなり待ったあと、そっと窓から覗いてみた」
「はい」
「庭にはもう誰もいない」
「はあ」
「あれは本当のサンタクロースだったのかもしれないと思いながら、サンタセットを組み立てた」
「それで、結末は」
「爺ちゃんは夜になってからケーキを持ってやってきた。わしへのプレゼントもな。それも月刊の漫画雑誌で、付録が多いやつじゃ。ライバル雑誌だ」
「で、サンタは」
「庭にいたサンタは何だったのかだ」
「何でした」
「この時代よくあったサンタ泥棒だろうねえ」
「はあ」
「背負っていた大きな袋。あれは盗ったものじゃろう。うちに入らなかったのは、わしが電気を付けたからじゃ。それで、他に行ったのかもしれん」
「はい」
「しかし、この辺りでサンタ泥棒が出たという話はなかったようでな」
「じゃ、本物の」
「さあ、家を間違えたのかもしれんが、正体は分からぬまま。しかし、わしはあれは本物のサンタではないかと思うことにした」
「それで」
「それで終わりじゃ」
「実は、というのはないのですか」
「ない」
「はい、失礼しました」
 
   了



2017年1月2日

小説 川崎サイト