小説 川崎サイト

 

風坊主


 いつの頃からか強い風が吹くと風坊主が出る。風の妖怪だが、姿はない。空気のようなもの。
 しかし木枯らしが吹く頃は姿が見える。葉が落ちるためだ。そのため葉が舞い、その葉の集まりで風坊主の形となる。坊主と言われているだけあって、てるてる坊主のような姿。春の花吹雪の頃も桜坊主のように出る。
 当然吹きだまりのゴミやチリなどで、風坊主となる。また吹雪のように強い風が吹くと、舞う雪が風坊主の姿になるが、これはスカスカの雪だるまのようなもの。
 高田はその妖怪書を読んでいて、思い当たることがある。風の強い日は真夏でも姿を現すからだ。ただ、形取れるようなものがあっての話で、綺麗に庭を掃除した場合、舞い上がるものや、吹き飛ばされるものがないためか、見ることはない。
 当然雪と同じように雨でも見えることがあるが、それは緩い雨に限られる。ただ風の都合で、半分ほど形取られることもある。これなら雨坊主だ。
 妖怪の解説書には、そこまでしか書かれておらず、風坊主の正体は分からない。分からないからこそ妖怪で、説明できないから神秘事。この妖怪書の作者はこじつけをしない。分からないままほったらかし。 しかし、高田は解答を持っている。そのように見えてしまうだけのことで、もし風坊主の話を聞かなければ、姿など一生見ることはないはず。実際にはかすかにその姿を現していても、気付かないだろう。そこに風坊主がいることを。
 この妖怪書には絵が入っているが、ヌボッとした鈍そうな姿だ。そのため、怖くはない。
 高田が庭で風坊主を見たのは、その妖怪書を読んでから。その後も風の強い日は見るようにしているが、いつもいつも見ているわけではない。風坊主に思いを寄せるのは、穏やかなときだが、天候ではなく、気持ちに余裕があるとき。
 その場合、風坊主が見える状態は、良い状態。また、そういう状態だからこそ、風坊主でも見付けてやろうという気になる。
 今年、見る機会は平年並で、まずまずだ。
 
   了

 


2017年1月11日

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