小説 川崎サイト

 

暖かくなる話


「寒いですなあ」
「冬ですから」
「こういう時は部屋でじっとしているのがいいのでしょうが、私の家がまた寒い。外よりましですが、日差しのあるときは外の方が暖かいほどだ」
「暖房は」
「炬燵と電気ストーブです」
「じゃ、十分でしょ」
「その状態でも今日なんて寒い寒い。温かい味噌汁を飲んでやっと落ち着きましたが、わが家が寒いというのは、いまいちですなあ。落ち着かない」
「エアコンは」
「ありますが、あまり暖かくはありません」
「部屋全体が暖かいでしょ。電気ストーブに比べ」
「それほど暖かくないですよ。設置場所が悪いのか、暖かい風が当たるところに私はいない。それに隙間風が入ってきます」
「部屋を閉め切っていますか」
「いえ、三部屋ほど開け放しています」
「閉めないと」
「それじゃ閉鎖的になりますし、いちいち襖を開けるのも面倒」
「去年の冬も、そんな感じでしたか」
「寒い寒いと思いながら過ごしましたよ。毎年です」
「じゃ、それが普通の状態なのですね」
「そうなんですが、暖かい部屋にいたいです」
「じゃ、暖房を増やすなり、着こむことです」
「耐えられないほど寒いと、震えがきますね。ガタガタと。そんなときは布団に入ってしまいます。ここは暖かい。自分の体温で暖かいのでしょうねえ」
「炬燵とかは」
「電気毛布が温泉のように暖かい」
「じゃ、暖かい場所があるじゃないですか」
「しかし、それじゃ寝たきりだ」
「寝たままテレビを見たり、本を読んだりできるでしょ」

「首までしっかりと布団でガードしておく必要がありますし、腕を出すと寒い。顔まで布団をかぶった状態で、ちょうどいい。だから何もできません」
「毎年、それで過ごしてこられたのでしょ。どうして今年は」
「あと、ほんの少し手を加えれば、今までにない暖かい冬が過ごせるかもしれません。そう思ったのです」
「手を加える」
「はい、電気ストーブが小さくて古い」
「ああ、それで交換するわけですね」
「そうです。倍の大きさで、体の芯まで温まるという遠赤外線タイプを」
「はいはい、じゃ、それを買われれば済む問題でしょ。電気ストーブなんて、そんなに高いものじゃないし、一度買うと、ずっと持ちますよ」
「これから買いに行くところです」
「はい、行ってらっしゃい」
「しかし」
「まだ何かありますか」
「先日見学に行ったのですが、迷ってしまって、どれを買えばいいのか分からない」
「今よりも大きい目なら、暖かいでしょ」
「そうなんですが、大きすぎると、重いので、持って帰れない」
「じゃ、配達してもらえばいいのですよ」
「そうですねえ」
「頑張って、買ってきなさい。持ち帰ったその日から暖かくなりますよ」
「そうですねえ」
 そうやって、彼は五回ほど買いに行き、迷ってしまい、今回は六度目だった。
 
   了




2017年1月19日

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