小説 川崎サイト

 

最高レベル


「あなたのレベルから一つか二つ落としたことをされる方がいいですよ。その方が簡単でしょ。それに無理をしなくてすみます。事柄だけではなく、物や道具類もそうです」
「仕事のレベルもですか」
「そうです」
「しかし一つ落とすも何も、これ以上落とせません」
「はあ?」
「一番下のレベルです。これ以下になると、もう仕事になりません。戦力になりませんから」
「あ、そう。困った人だ」
「困ったから来ているのです」
「その最低のレベルの下は本当にないのですかな」
「超初心者レベルならありますが、これはほとんど素人です」
「じゃ、素人レベルで結構です」
「いやいや、それでは仕事になりません」
「じゃ、どのレベルなら仕事になりますかな」
「私の場合、レベル一です。現場で活躍できるのはレベル五です」
「レベル一から二は無理なんですかな」
「いつもはレベル三のふりをして頑張っています。レベル二もきついです」
「ほう、それなのにレベル三がこなせていたのですかな」
「かなり頑張ればできますが、本当に必要なのはレベル五からなんです。レベル五で一人前の仕事ができます。同僚はレベル四から五が多いです」
「困りましたなあ。下へは行けない」
「はい、素人になりますから。戦力外です」
「困りましたなあ。私の論理が通じない」
「はあ、最初からレベル三ならいいのですがね。レベル二に落としても分かりませんが、本当はレベル5を要求されています。そうでないと足手まといですから」
「下へも行けない。上へも行けない」
「そうです。そんな切り替えるだけの余裕がありません」
「しかし」
「はい」
「レベル一のあなたが、よく勤まっていますねえ」
「はい、ぎりぎり三に見せかけています。二にまで落とせば少しは楽なのですが、実力は一です。一なら普通にできます」
「ということは」
「何でしょう」
「それだけ背伸びができるのは逆に言えばすごい話です」
「だから、それがきついので」
「そうでしょうなあ。きついでしょうなあ。辛いでしょうなあ」
「そうです」
「どうすればいいのでしょう」
「辞めるしかないでしょ」
「辞めないで続ける方法を聞きに来たのです」
「じゃ、いっそのこと最上位者のふりをしなさい」
「最上位はレベル十で、うちにはいません。六が最高です」
「じゃ、レベル十のふりをしなさい」
「それは……」
「誰もレベル十を知らないのですから、分かりませんよ」
「そういえばうちで一番高いレベルの大先輩はあまり仕事をしていません」
「そうでしょ。だからレベル十はのんびりできそうですよ」
「はい、やってみます」
 
   了

 


2017年2月12日

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