小説 川崎サイト

 

駱駝の話


「最近どうですか」
「寒いです」
「冬ですからなあ」
「そうですねえ」
「最近どうですか」
「え」
「最近」
「最近ですか。そうですなあ」
「何かありましたか」
「変わり映えはしませんが、まあ言うほどのことじゃありませんから」
「仰って下さい」
「駱駝のパンツとパッチとシャツ」
「ラクダ」
「茶色っぽい爺シャツですよ」
「久しく聞かない言葉ですねえ」
「言葉じゃなく下着です」
「噂には聞いたことはありますが」
「そうでしょ、ヒートテックスより暖かく、そして身体にもいい」
「え。ヒートテックスは身体に悪いのですか」
「肌に化繊はだめでしょ。しかも仕掛けのあるような。その意味で、天然物の駱駝がいい」
「駱駝って暖かいところにいる動物でしょ」
「月の沙漠に出て来る乗り物です。乾燥したところにいるんでしょうなあ。それはどうでもいいのですが、あれが欲しい。砂漠は暑そうですが夜は寒いですよ」
「売っていませんか」
「売っていますが、高い」
「はあ」
「駱駝のパンツとシャツとパッチ。靴下や手袋も」
「それが何か」
「だから、変わり映えのしない話ですが、そういうのが欲しいなあと思っていたのです」
「どうして? 寒いからですか。それならカイロを仕込むとか、圧手の肌着にするとかもありますよ。ボア入りの分厚いのもありますよ」
「だから、化繊じゃだめなんです」
「アレルギーでも」
「肌着は自然物に限ります」
「はいはい」
「それでなぜ駱駝なのですかな」
「ロバのように聞き耳を立てて聞いたのです」
「誰から」
「世間話をしている隣の年寄り達から」
「どんな」
「駱駝が最強だと」
「そのお年寄りの人達は駱駝の肌着を着けていたのですか」
「それは見えないので分かりませんが」
「ずっと身につける肌着で、一番汚れやすいところですから一セットや二セットじゃだめでしょ」
「そうなんです」
「そのお年寄り達も噂で聞いただけじゃないのですか」
「ロバの耳で聞いたところ、そのうちの一人は持っているらしいのです。ですから体験談です」
「ほう。でも舌切り雀のように一着だけとか」
「着た切り雀ですな」
「ああ洒落でそうとも言いますが」
「それが最近の話です」
「少し固有すぎますねえ」
「だから、言うほどのことじゃないと断ったでしょ」
「はいはい」
「しかし」
「何か展開が」
「いや、そろそろ春の噂も聞きます。もう今頃買っても遅いなあと」
「そうですよ。そういうのは思い付いたら吉日。月日は流れ、年が増すばかり、もたもたしていると終わってしまいます」
「そうなんです。グズグズ考えている間に、駱駝の季節が過ぎようとしています」
「はい」
 
   了

 


2017年2月17日

小説 川崎サイト