小説 川崎サイト

 

ガラスのドア


 ドアが三つある。大きな入り口だ。どのドアもガラス張りで、横に並んでいる。谷口は隅、端が好きなので、左端のドアを開ける。引っ張っても開かないので、押すが、それでも開かない。つぶれているのではなく開かないようにしているのだ。そのドアにはステッカーが色々と貼れている。犬のマークに駐車禁止のような赤い丸が取り囲んでいたり、喫煙とか、さらに注意とかもある。これはガラスなので知らないで通ろうとする人がいるのだろう。足下から頭まですべてガラス。天窓もあるが、これは最初から固定。
 そのステッカー類の中に「この扉は閉めさせていただいております」と書かれている。小さな文字だ。ステッカーの方が目立つため、気が付かなかったのだろう。
 ドアは三つある。左端はだめ。すると右端もだめだろう。念のため谷口はそのドアを引く前に注意書きを読む。同じことが記されている。こちらのドアは左端のドアより小さい。雨戸一枚分ほど。左端はその倍。だから取っ手が二つ付いていた。
 そして中央部のドアから入ることにしたのだが、このドアが一番大きい。都合四枚分ある。ここが開くことは知っている。何人もの人が出入りしているため。さらに谷口も左から右へ行くとき、スーと開いたことを知っている。自動ドアで、これがメイン。
 ガラスドアなので、向こう側が見える。廊下が続き、左右には店舗。
 仕方なくというより、端好き、隅好きの谷口としては不本意だが、別に悪いことが起こるわけではない。験担ぎなのだ。それは端から攻める流儀が谷口にあるため。
 真ん中のドアは何もしなくても開き、谷口は中に入った。すると、またドア。先ほどとうり二つ。同じ仕掛けだ。これは空調のためだろう。ドア一枚だけだと開いたとき夏場は熱い空気、冬場は冷たい空気が施設内に入り込む。そのため二度開けになる。最初のドアが開くと同時に閉まる。開いているときはその先のドアは閉まっている。だから続けて人が通らない限り、外気から遮断された状態を保てる。
 その間の空間は何もない部屋。部屋としても使われていないが、正方形に近い。最初のドアが開き、人が通り、それが閉まる頃、次のドアまでその人が来ている。だから距離が短いと、だめ。ある程度の余地がいる。ゆっくりと歩いている人なら問題はないが、走っている人なら二枚とも開いた状態になるかもしれないが、自動ドアにはタイムラグがあり、すぐには反応しない。だから走るスピードで二枚目まで来ても、ドアはまだ開いていない。
 そのドアとドアの隙間の空間。前後はガラスドアだが、左右もガラス。これは店舗との間の壁になっている。そのため、床と天井以外はガラス室になる。ただ、そこは通るだけの部屋なので、廊下と同じだ。
 当然二段目のドアも、一段目のドアと同じ並びで、仕掛けは同じはず。しかし、念のため左端の手動ドアを押してみた。当然開かない。それで引いてみると、開いた。
 谷口はそこでワープしたかどうかは分からない。なぜならガラスドアなので向こう側は最初から見えている。そしてそこに出た。しかし、本当に同じ場所なのかどうかは分からない。
 
   了

 


2017年2月19日

小説 川崎サイト