小説 川崎サイト

 

人智の外


 妖怪と遭遇する機会のない妖怪博士だが、常に妖怪のことを考えている。その中に妖怪の発生がある。どのようにして妖怪が発生したり現れたり、出るかだ。
 その日、いつもの担当編集者が来ていたので、その話をするが、彼は興味がないようだ。そのため、聞く耳ののりが悪い。
「妖怪の発生ですか」
「そうじゃ」
「出たものは仕方がないでしょ。それにそんなに始終出ているわけじゃありませんし、目に見えないのでしょ」
「形を与えるのは人じゃ」
「名前もですね」
「そうそう」
「それで妖怪の発生理由が分かりましたか」
「人智を超えた現象があるじゃろ」
「あることはありますが」
「そんな大層なことでなくても、日常の中にもごろごろ転がっておる。知恵でも金でも運でも何ともならんような出来事がな。因果の外からいきなり来たような」
「はい」
「妖怪呼ばわりする場合もそうじゃ。これも常識では考えにくい行動を取るとか」
「ありますねえ。この前までは新人類とか宇宙人とか呼んでましたよ」
「まあ、それは対人のときのもので、人には変わりはない」
「宇宙人も人ですか」
「人と書いてあるから、人じゃろう」
「それで妖怪の発生原因ですが」
「発生理由は多々あるが、その中の一つとして、先ほども言ったような人の力では何ともならんことが起こったとき、それを妖怪として扱う」
「はい」
「解決策がない。手の施しようがない。これは困った現象」
「そうですねえ」
「だから人智の外として扱う」
「平凡な理由ですねえ」
「そうか」
「もっと何か、それは凄いというのはないのですか」
「突拍子もないよう説では妖怪に説得力がない」
「説得力」
「いるかもしれんと思うような平凡で単純な方が受け入れられやすい。だから色々な妖怪が発生した」
「はい」
「妖怪は動物の形をしていることが多い。動物に何か妙な力があるように感じたりする。犬猫の知恵などたかがしれておるが、そこから来るものではなく、目に見えぬものと繋がっておりそうな」
「えさのことを考えているだけでしょ」
「いや、たまに何かを感じておる。これは人には分からん何かじゃ」
「はいはい」
「それを人智の外という。とんでもない災いを受けたとき、その仕業ではないかと思う人は最近はおらぬが、因果の外から来た何かかもしれん。だから人智では手の施しようがない。また解決方法もない。妖怪の仕業なので詮無しとしてな」
「自然災害のようなものですか」
「それもあるだろうが、個々人の暮らしの中にもある」
「それは何でしょう」
「分からん」
「そんな、あっさりと」
「まあ、人智の外とはいえ、因果が巡ってそうなるのじゃろうが、その説明が難しいとき、または原因が本当に分からん場合、これを妖怪の仕業として、妖怪を作るのじゃ」
「はい、では、今日はこれぐらいで」
「早いなあ。まだ三分の一しか話しておらんが」
 編集者は、ぱっとしない話のためか、すぐに退散した。
 
   了


 


2017年2月20日

小説 川崎サイト