小説 川崎サイト

 

黒金の復讐手帳


 黒金はいつもひどい目に遭っている。しかし、性格が大人しいのか、されるがまま。このままでは黒金の精神状態が悪くなると思い、同僚の竹中が同情し、見舞いに行った。黒金はひどい目に遭いすぎたため、寝込んでいたのだ。しかし実際には風邪が長引き、悪化したようだ。
「復習手帳とかはつけているの」
「つけていない」
「じゃあ、復習覚え書きとか、怨念帳とか」
「ない」
「普通の日記は」
「ない」
「それは困った」
「どうして」
「いつか溜まりに溜まった怨みが何処かで出る」
「そうなの、でも復讐しようとか、怨みに思っているとかはないよ」
「それが逆に怖い」
「病気になるから?」
「そうじゃなく、知らないうちに念を送っているんだ」
「誰に」
「君にひどいことをした人達にだ」
「沢山いるから」
「その中に僕は入っていないだろうねえ」
「ああ、どうだったか」
「こうして君に同情して、心配して来ているんだから、僕は入っていないだろ」
「そうだね」
「君に怨まれるようなことなんて、していないからね。それに大勢って、誰と誰のこと」
「さあ、多くの人だ」
「復讐人別帳はないの。ランク付けをしたり」
「そんなの作っていないよ」
「とりあえず、危険な真似をしないように」
「どんな」
「復讐に決まってるだろ」
「そんな気はないよ」
「ある方がいいんだ。ないほうが怖いんだよ」
「どうして」
「知らないうちに式神を飛ばしているからだよ」
「式神」
「まあ、念を送るようなものかな」
「念」
「恨みの念を、その相手に送るんだ」
「そんなことしないよ」
「だから、無自覚のうちにやってしまうから、怖いといってる」
「じゃ、どうすればいいの」
「復讐日記を書くんだ。それだけでもかなり緩和されるから」
「恨みが消えるの」
「消えないけど、意識的に怨んでいる方がいいんだ」
「どうして」
「式神の目を逸らすためだよ」
「ふーん」
「式神は君が気付いていないときに飛ぶ。復讐手帳を付けていると、気付いているからね、意識しているから、式神の出番はなくなる。だから、大いに復讐手帳に復讐日記を書くこと。分かったね」
「分かった」
 それからしばらくして、竹中は体調を崩した。それが少し回復した頃、黒金を訪ねた。式神を飛ばされたからだ。
 竹中は黒金の復讐手帳を見せてもらったが、竹中の名前はない。
「どういうこと、なぜ僕に」
「怨んでいないよ。竹中さんだけはいつも親切だし心配してくれているし。そんなの飛ばすはずがないよ」
 意識に上らないが受け続けている恨みもあるのだろう。
 式神はそれを見付け、竹中を襲ったようだ。
 それ以前に黒金は、鉄の鎧でも着ているのか、結構タフな精神の持ち主だった。
 
   了

 


2017年3月13日

小説 川崎サイト