小説 川崎サイト

 

花粉症

 
「事実というのは幻想なのです」
「ほう」
「現実だと思っていることは実は幻想」
「それは」
「この図式が当たっているとすれば、フィクションと変わらない。同じ土俵に立つ。むしろフィクションの方が安定しています。しかし、フィクションはこれは架空の話と断っています。現実の何処にもそんなものはないと」
「しかし、フィクションと幻想は違うでしょ」
「え」
「フィクションとは架空の物語、それなりにうまく作られています。しかし、幻想はそれよりもラフです」
「似たようなものでしょ。どちらも嘘なのですから」
「フィクションは嘘だとは限りませんよ。現実にあったことをモデルにしていることもありますしね。名前や場所や団体名が違っていたり、時代が違っているかもしれませんが」
「はあ」
「幻想は幻覚や幻聴と同じでむちゃくちゃです」
「そこなんです。その方がより現実に近くなるかと」
「いや、よりかけ離れていると言いますか、論理的ではなく、破綻して、話にも何にもならない」
「その話そのものが、実は破綻しているのではありませんか」
「え」
「ですから、本当のリアルな現実というのは結構支離滅裂で、幻想や妄想を超えた世界ではないかと思うのです」
「思うのは自由です」
「それを何とか紡いで整理し、加工して現実らしく受け入れているだけなのです。本来はカオスです」
「また、ややこしいことを言い出しましたね竹田君」
「ですから現実に起こったことでも解釈の仕方で何とでもなるでしょ」
「しかし、現実は現実としてあるでしょ。嘘は嘘として」
「この場合、現実も嘘もあまり関係がないのです」
「何ですか、その論理は。それは通用しません。それこそが妄想ですよ竹田君」
「その妄想の隙間に、本当のものが隠されているのですが、それはたどり着けないし、取り出せません。なぜなら、現実は、そんな現実世界にはないからです」
「はいはい。春先なので、頭がどうかしましたね」
「こういう狂気がテコになり、新たなものの発見に繋がるのです」
「そんな発見、ありましたか」
「ああ」
「ないでしょ」
「そうですねえ」
「花粉が飛んでいます。それを吸い過ぎたのでしょ」
「あ、はい」
 
   了


2017年4月6日

小説 川崎サイト