小説 川崎サイト

 

見えないものを見る

 
 平田氏は見えるものは見ていない。見えないものを見ている。目で見えているものより、見えていないところのものを見ている。見えているものはほんのわずか、そのため、表面的なので、大したことはないので、見ていないのだろう。ただ、それでは道を歩けないので、そういうときは見えているものを見ているが、それでも目に映っていない本質を見ている。この場合、見ているというより、想像していると言ってもいい。
 そのため、平田氏は本質を見抜く力を持っているが、その本質、現実とはあまり関係がない場合があり、それが見えていなくても、別段困らなかったりする。
 当然平田氏は相手の言葉を鵜呑みにしない。そして言葉を信じていない。表に出てくる言葉ではなく、言葉の裏にあるものを読もうとする。どうして、その言葉となって出るのかを。また、言葉が指しているものよりも、その言葉の発生源の方に興味が行く。
 ややこしい人だ。だから、人間関係はうまくいかず、知り合いはいるが友人はいない。また、初対面の人も、平田氏がたまに挙動不審になるので、気持ち悪がる。会話中も演算をしているのだ。言葉通りに受け止めないで、ものすごい探りを入れている。
 それは見た感じ、犬に食べ物を差し出したときの表情に近い。食べられるものかどうかをじっと見ている犬の表情に。
 平戸氏の洞察力は、それでかなり鍛え上げられ、最近では洞察時間はほぼ瞬時にまで上がっている。人の話など、喋りだした瞬間、もう分かってしまうようだ。しかし、具体的な言葉が出る前なので、用件などはもっと聞いてみないと分からないが、何らかの用件を頼みに来たようだとはすぐに分かるし、この相手なら、これだろうと内容も推測できる。そして大概は当たっている。
 しかし、読み過ぎ、見えすぎるのもよくない。それは平田氏自身の行動も、予測できてしまうためだ。行動する前からもう結果が分かっていたりする。さらにそれが終わった後の様子まで見ているのだ。そのため、余計なことはしなくなるが、うまくいくであろうと推測できるものは非常に少なかったりする。それがうまくいったとしても、その後が悪かったりする。目的は果たせるが、その後が悪いとか。
 だが、それらはすべて平田氏の想像内のこと。しかし、現実は想像していないことが起こる。偶然とか、たまたまとかで事態が変わったりする。残念ながら平田氏の洞察は、それは圏外なので、予測できない。
 見たものを信じない平田氏だが、単に疑い深いだけの人かもしれない。
 
   了



2017年4月9日

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