小説 川崎サイト

 

難事

 
「聞けば凄いことになっているとか」
「大したこと、ありません」
「難事か」
「そのうち終わります。ここはじっとしている方が」
「そうか。しかし、なぜそのようなことが起きた」
「それがよく分からないのです。難事よりも、その原因の方が難事でして」
「難事が難事を呼んだのでは」
「いえ、難事になるようなことは何もなかったはずです」
「しかし、起こった」
「はい」
「それは難儀だ」
「原因が分かりませんから、下手に動かない方がいいと思います」
「この家だけではなく、我が家にも関わること。早急に解決するように」
「はい」
 難事の正体は、難儀な人が来たことだ。これは招かざる客で、台風のようなもの。または疫病神。その人物がなぜ来たのかが分からない。
 屋敷内にしばらく滞在し、何事もなく立ち去った。
「去ったか」
「はい」
「あれが来ると家が潰れるという。無事で何より。参考までに聞きたいが、どういう手を使った」
「だから、何もしませんでした」
「何か仕掛けて来ただろう。用件とかを」
「無視しました」
「それでは余計に」
「はい、その通りです。しかし、乗りませんでした」
「そんなことですんなりと引き下がる相手ではない」
「逆に用事を頼みました」
「何と」
「その用で、出ていきました」
「どういう用件を頼んだのだ」
「難儀な用件です。きっと果たせないでしょう」
「そうか」
「だから、戻ってきません。ご心配なく」
「難には難か」
「はい、それで難なきを得ました」
 
   了



2017年4月30日

小説 川崎サイト