小説 川崎サイト



少年と女

川崎ゆきお



「これも古い話なんだが、昔は妙な家があったねえ。妙な女が住んでいてね。子供だったから事情は分からないままさ」
「今とは時代が違うのでしょうね」
「すぐに引っ越したからねえ、その後どうなったのかも分からんよ。しかし、その後、何もなかったかもしれんなあ。事件というほどのもんじゃないから」
「妙な女ですか?」
「今思うと好き者だよ」
「その女がですか?」
「ああ、その女も僕たちもね」
「はあ」
「あれが好きな女だった……としか説明の仕方がないね」
「おおよそ想像はつきます」
「手入れなどしていないような垣根があってね。入ろうと思えば入れるんだ。庭も森のような繁みさ。雑草が庭を埋めていたね。こういう家って、原っぱのようなものなんだ。つまり、子供の遊び場になりやすいんだな。手入れされていると荒らしちゃ悪いと思って近付かないよ」
「その女の家のことですね」
「そうだよ。また、こういう場所は冒険場所になるんだな。原っぱと違い、入り組んでる。まあ、最初のうちは垣根から出たり入ったりして遊んでいたよ。すると見つかった」
「その女に見つかったのですね」
「ずっと見ていたようだよ。友達は逃げ出した。僕は気付くのが遅かったんだ。すぐに逃げればよかったんだけど、半分裸なんだ」
「はあ」
「僕じゃないよ。女がだよ。春先で暖かい日だったけど、スリップ一枚だった」
「入浴中だったとか」
「違う。見せてるんだよ。肩紐がずれてた」
「何か事情があって、そんな姿になっていたのでは?」
「僕も最初はそう思ったんだけど、あとで考えると、その姿を見せつけようとしていたんだよね」
「それでどうなりました」
「逃げたよ。当然でしょ」
「そ、そうですねえ」
「それから僕は一人であの家に入り込んだ。垣根から出たり入ったりを繰り返したんだ。するとあの女が縁側の障子を開けて、見ている。今度は上半身は裸だよ。そして手招きした。優しく微笑みながらね」
「それはキツネか何かなんでしょうね」
「そう解釈したほうが穏やかだよね……」
 
   了
 
 
 
 
 

          2007年4月20日
 

 

 

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