小説 川崎サイト

 

青嵐

 
 広大な森に囲まれた寺院に妖怪が出る。森といっても山の中なので、最初から周囲は樹木に覆われている。そこを切り開いて寺としただけなので、森をくり抜いたようなもの。
「どんな妖怪ですか」
「新緑の頃に出る。だから今頃かな」
「何ていう名です」
「セイラン」
「せいらん」
「青嵐と書く」
「青と嵐ですか」
「この季節に吹く強い風じゃ」
「それが妖怪なのですか」
「特にこういう場所は吹きやすい」
「気持ちの良い風ではないですか」
「青嵐なので、嵐のように強い風」
「その風が妖怪なのですか」
「それをセイランの仕業だと言っている」
「ただの自然現象でしょ」
「谷から吹き上げてくる谷風とはまた違う。風向きが分からん。谷風は気温が上がったときに吹きやすいが、セイランは温度には関係なく、雨でも曇りでも、ひんやりとする日でも吹く」
「正体は何ですか」
「呼んでそのままの青い風」
「若葉が吹かすのですか」
「この寺では青坊主が吹かしておると言っている」
「青坊主」
「まだ若い坊主じゃ。小坊主と大人の坊主との間ぐらい」
「中坊ですね」
「この寺にある中坊にも、昔は多くの青坊主がいたらしい」
「はい」
「ほら、また強い風が吹き出した」
「雨も降ってきましたよ」
「この時期の風は悪い風でな、青毒が含まれておる。だからこの風には当たらん方がいい」
「青臭そうな風ですねえ」
「青葉の風、青嵐が吹くときは外に出ぬこと」
「その妖怪にやられるためですね」
「ああ、青臭いものを仕込まれる。これは修行の邪魔」
「はい」
 
   了

 


2017年5月9日

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