小説 川崎サイト

 

ある集まり

 
 垂水はある面倒な集まりに行くことになり、それがプレッシャーとなっていた。特に何かが起こるわけではなく、命が狙われているわけでもなく、悪いことが起こるわけなどない一種の親睦団体。人数は数人。人情的には行きたくないが、義理があるので顔を出す必要がある。行ったというだけで目的を果たせる程度なので、簡単な話だ。ややこしい交渉事や決め事をするわけではない。
 垂水が面倒がるのは集まる人が全て年上のためだろう。それで気を遣う。これが面倒なのだ。
 約束の日が近付いて来るに従い、落ち着かなくなる。だから当日まで忘れていた方が良いのだが、それでは行けなくなる。何処か頭の隅っこに仕舞っておけば良いのだが、目立たないところがいい。その集まりのことを思っただけでも鬱陶しい気になる。
 それは一ヶ月前に決まったことだが、一ヶ月間、ずっと気になっていたわけではない。一週間後に迫った頃に射程距離内に入った。そろそろその日が近いことを思い出したからだ。片隅からそれが起動したようなもので、まったく忘れてしまっていれば、思い出しもしないだろう。それは日にちを覚えていたからだ。そのため数週間は圏外で、先のことなので、気にならなかった。
 これが一年前に決まった話なら、その月が来たとき、気付くだろう。今回は一月前に決まったことなので、その週に入る手前で思い出した。
 頭の片隅からの起動。よく覚えていたものだ。だから片隅で覚えていたのだろう。楽しいことなら、何度もそれを思い出すが、嫌事の場合、できるだけ奥の方に引っ込めている。
 一週間後はまだ余裕がある。まだ先だ。そして二日後に迫ったとき、平和なのは今日だけで、明日になるとその翌日が当日になる。二日前なら、明日はまだ無事だ。だから、ここは安全地帯。普段通りに過ごせる。
 そして前日になった。集まりは昼頃。そして前日の昼頃になったとき、明日の今頃は、となる。かなり迫ってきている。
 そして当日。朝起きてすぐに集まりがあるわけではなく、昼頃なので、午前中はまだ安全地帯。寝起き行く散歩はまだまだ日常の延長。いつも通り過ごせばいい。
 そして午前中の用事をしているときも、まだ大丈夫だ。集まりのある場所への到着時間を計算に入れると、まだ二時間ほどある。一時間前までは、まだ安全地帯で、自分の世界。
 そして出掛ける一時間前になった。まだ一時間あるが、このときから崩れ始める。もう至近距離に入っているのだ。
 そして家を出る。しかし、駅までの道は、まだまだ自分のペース。圏内ではあるが、最中ではない。行く途中で、まだ現場には到着していないのだから。
 車内の中で、少し居眠りをする。何事も起こっていない。最後の安らぎの場だ。
 しかし、駅から降りて、集まる場所までの道も、まだ大丈夫。しかし殴り込みにでも行くような顔になっている。あと数分で、本番が始まるようなものだ。
 そして、集まりは無事終わり、思ったより早く解散した。
 垂水が恐れていたことなどは起こらなかった。集まった人々は垂水には友好的で、和やかなうちに終わった。
 
   了


2017年5月14日

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