小説 川崎サイト

 

逸した話

 
 真意を隠すため、逆のことをする。よくあることだ。しかし逆のことをやり過ぎると、本意とするものが遠ざかったりする。逆に真意ではない反対側のことに成功してしまうとどうなるのか。成功したのだから、それでいいのではないか。
 悪意を隠すため、善意を示し続け、良き仲間となり、成功を収めたとき、最初の悪意はまだ残っている。たとえば、悪意を抱きながら友好的に協力し、上手く行った後、どうなるか。悪意はそのままなら、その相手を蹴り落とす作戦に出るかもしれない。
 この場合は、それほど問題はないが、真意を隠し、逆のことをして上手く行ってしまったときは、これは困るだろう。上手く行くとまずいのだ。目的はその反対側にあるのだから、目的が達成できなかったどころか、最悪の状態になったようなもの。
 真意を隠し続けていると、いつかは化けの皮が剥がれる。それは何処かでカムフラージュを外し、本性を露わにしたためだ。
「私が失敗したのは偽装し続けたためです。ライバル側はそれですっかり信用し、もう疑わなくなっていました。その油断に付け込んで、一気に、と思ったのですが、そのタイミングを逸しました」
「しかし、今では功労者の一人として」
「いや、私が天下を取るはずだったのですよ。その他大勢の一人じゃなくね」
「それは残念でしたねえ」
「おかげで化けの皮を剥がされなくて済みましたが、私の本意ではありません。彼らとは真逆のことをやりたかったのに、いつの間にかずるずるといっしょになってやってしまいました」
「あなたの功績は大きいです」
「今度異変があれば、そのときはしくじらないようにします」
「実は私もあなたと同じなのです」
「え、そうなのですか」
「実は私も狸をやっていました。あなたと同じ作戦でした」
「ほう、それは驚いた」
「いえ、他の人達も、実は」
「え、じゃ、誰も本意では無いことをやってしまったわけですか」
「全員じゃないですがね」
「困ったでしょ。別の結果になって」
「まあ、今となっては、何ともなりませんからね」
「そうですねえ」
「しかし、あなたと同じ目的だった人が殆どでしたよ」
「え」
「だから、あなたが本性をむき出して、裏切れば、大勢の人があなたに従ったはずです。そして成功していたでしょう」
「そうでしたか」
「逸しました」
「はい、逸しました」
 
   了


2017年5月17日

小説 川崎サイト