小説 川崎サイト

 

疑い続ける

 
 田所氏には下心や野心があると疑われていた。本人にはその気はない。ただ、置かれている状態がそう思わせるだけの条件が揃っているのだろう。
 田所氏は忠臣とまではいかないが、それなりに仕えている。地味な人だが有力者なのは確かで、その縁者もいい地位にいる。事を起こせば一気に……というパターンが当てはまる。
 田所氏もそれを意識しており、二心なきことを丁寧に説明し続けていた。しかし、疑心を抱く人にとっては、そんなことでは説明にはならないらしい。そして田所氏を応援する人が結構いる。こちらの方が数が多い。下手をすると、その神輿に乗せられる。そのため、田所派と呼ばれる人達を遠ざけた。
 それでも田所氏を疑う連中は、今にも謀反を起こすのではないかと警戒し続け、少しでも怪しい動きがあると、大袈裟に取り沙汰した。場合によっては釈明を求められた。
 あるとき、些細なことで追求された。菩提寺を建て替えたときの山門名が誤解を受けたようだ。こじつけだ。
 あまりにも疑い続けられるため、ついに田所氏は堪忍袋の緒を切った。そんなに疑うのなら、疑われているようなことをやって差し上げようと。
 田所氏が決心さえすれば、あとは周囲が勝手に動き出し、謀反が起こった。
 危険視されていただけに、勢力があり、あっという間に政権を奪った。
 下心も野心も田所氏には最初からなかったのだが、あまりにも疑われすぎ、それで火が付いたようなものだ。
 もし、そんな疑惑を抱くような人が周囲にいなければ、田所氏は温和な重臣として、仕え続けただろ。
 皮肉にも疑いの目で見ていた人達の期待にこたえることになってしまった。
 
   了

 


2017年5月24日

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