小説 川崎サイト

 

砕けた夢

 
 砕け散った夢や希望の残骸を見ながら吉岡はさらなるものを思い浮かべていた。失敗に終わったものより、さらに高い目標を立てようとしていたのだが、ある段階に達しないと、次のレベルには上がれない。だから、目標を変えるべきで、どちらかというと下げた方が好ましい。
 そうすると、夢や希望が貧弱になり、覇気がなくなる。達成してもそれほど素晴らしいことではないからだ。それで、さらなる高みを目標とした。
 つまりここに来て、実現不可能に近い夢を抱いたのだ。夢なのだから、何でもかまわないのだが、可能性がなければ無駄な努力となる。しかし、夢とは本来そういうもので、夢のような話なのだから、実現する可能性は殆どない。また無理な話を夢のような話とも言う。
 しかし、実現しなくてもかまわないフリーな夢を思い浮かべようとしたのだが出てこない。前回失敗した夢は不可能ではなかった。だから、再挑戦すればいいのだが、これは何度もトライしている。今回で何度目かの失敗だ。このあたりが引き時だろう。やるだけのことはしたのだから。
「次の夢は何ですか」
「ああ、だからさらなる高みを」
「じゃ、純粋な夢になりますねえ」
「そうだねえ」
「まあ、夢は見ているだけで十分でしょ」
「そうだよ」
「それで、何か見付かりましたか」
「それが」
「見付からない?」
「そう」
「夢なんですから、何でもかまわないでしょ。好き放題、言いたい放題で」
「やはりリアリティーがないとねえ」
「実現可能な夢の方がいいわけですね」
「そうじゃないと、変化がない」
「具体性が欲しいと」
「そうです」
「それよりも、私なんてもう夢見る力もなくなりましたよ」
「ほう」
「まだ、夢を探しているだけでもましです」
「つまり、夢がないと」
「見たい夢がね」
「私はまだ探そうとしています」
「良い事です。まだお元気だ」
「それで、最近思い付いたのですが」
「ほう、見付かりましたか」
「夢のあるものを見ることです」
「何ですか」
「だから、夢のあるものを見ることです」
「夢のあるものに触れるとかですか」
「そうです」
「それはフィクションでしょ。そして他人の作った夢のような話でしょ」
「どうやら、それがお話しの始まりらしいのです」
「それは知りませんでした」
「その場合、本当に見た夢。夜に見た夢ですが、それを人に語るのです。夢で見た話なので、有り得ないような話になるので、結構受けたようです」
「荒唐無稽な話でしょ」
「何を見るのかは、本人にも分かりませんが、作り話ではありません。夜中に勝手に創作されているのですから」
「しかし、それは聞くだけの夢でしょ。本人とは関係のない」
「そうですねえ」
「だから、実現できる現実的な夢が好ましいですよ」
「探してみます」
「夢見る力とは、探す力ですよ」
「はい」
 
   了
 

 


2017年5月25日

小説 川崎サイト