小説 川崎サイト

 

正夢

 
「昨夜、妙な夢を見ましてねえ」
「結構です」
「そうなんです結構な夢です」
「夢の話は結構です」
「結構?」
「しなくてもいいということです。私は聞きません」
「興味深い夢ですぞ」
「夢はお一人様専用」
「あああ、はいはい、そうですね。見たのは私だけだし、同じものを他の人は見ることができませんからね」
「だから、メディアとしては」
「夢がメディアなのですか」
「情報媒体です。それを受け取る手段のようなものです」
「でもテレビでも雑誌でも、読んだり見たりするのは一人でしょ。ラジオなんてそうですよ」
「昔は家族揃ってラジオを聞いていたりしましたから一人専用ではありません。その気になれば、同じものを大勢で見たり聞いたり読んだりします。ところが夢は自分しか見ることができません」
「夢を記憶する装置があればできるでしょ」
「それは記憶です。夢を覚えておればいいのですが、これは不正確。今、あなたが語ろうとしている夢もそうでしょ。しっかりとは覚えていないでしょ。印象に残ったところ程度。それに夢の中に出て来る人の顔が分からなかったりします。しかし、誰だか分かっている。当然服装もそうでしょ。どんな形の服装かまでは覚えていても、色柄や、アクセサリー類までは無理でしょ。実際には目では見ていないわけですからね」
「昨夜見た夢なんですが」
「だから、結構です」
「そう仰らずに聞いて下さい。これは正夢かもしれません」
「ほう」
「宝物が隠されている洞窟があるのですが、その地図を夢で見ました。しっかりと記憶しています。簡単な絵図ですので」
「それこそ夢のような話でしょ」
「夢ですから。そのままです」
「で、場所は」
「この近くです。地形的に合っています。城峰山がおそらくその宝の山で、その洞窟の入り口は、位置だけ記されています。山の北西です。そこは少し入り組んでいるところで、一番懐が深い場所でしてね。沢です。滝があります。そこから推測して、滝の裏側にポッカリと洞窟の入り口が」
「あ、そう」
「私は足腰が悪いので、そこまで行けませんから、あなた、見てきてくれませんか」
「見た夢は地図だけですか」
「そうです。宝の在処を示す地図の夢を見ただけです。それをここに書き写しました」
「しかし、入り口は分かっても、その洞窟の何処に隠されているかでしょ」
「そうなんです」
「じゃ、自分で探さないといけない」
「はい」
「洞窟内の地図はないのですか」
「今度見ます」
「え」
「続編を」
「おそらく小さな洞窟なのでしょ。だからすぐに分かるような場所にあるはず。正夢だとすれば、その洞窟に入ればすぐに見付かるようなね」
「そうですなあ」
「じゃ、行ってくる」
「その気になりましたか」
「半分半分でよろしいですね」
「はいはい。情報の提供者に半分ですね」
「そうです」
「じゃ、お気を付けて」
「はい」
 
   了

 


2017年5月26日

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