小説 川崎サイト

 

悪魔の正体

 
 妖怪博士は妖怪の研究家だが、妖怪だけはネタはすぐになくなってしまう。そこで最近は悪魔の研究をやっている。こちらの方が迫力があり、その正体がよく分からない。
 人には専門がある。しかし意外と専門分野より、別の分野をよそ見している方が楽しい。それは新鮮なためだろう。世の中にはジャンルの違うもの同士が一緒になって一つのことをし、今までとは違うものを作り出すというのもあるが、これは退屈しているためだろう。
「悪魔博士になるつもりですか」
 妖怪博士付きの編集者がからかう。
「妖怪も悪魔も似たようなものでな」
「何か分かりましたか」
「その正体が分かったが、そこで終わりだ」
「悪魔の正体が分かったのですか」
「分かったが、それまでのこと。そこから先はつまらんので、もう研究は止める」
「悪魔の正体は何だったのですか」
「これは思いつきじゃ。だから、そこで終わってしまうが」
「聞かせてください。悪魔の正体を」
「猿だ」
「はあ」
「人類の祖先まで遡るが、旧人類のことじゃ」
「ジャワ原人とか」
「それが悪魔じゃ」
「簡潔ですねえ」
「人類にも色々な種類があった。滅びた原人の方が多いだろう」
「神との対比で悪魔がいるのではないのですか」
「神とは生き残った側の人類だ。その間、他の人類とも交わっておるが、今いる人とは違う人がいた」
「今、地球に住む人の最初の母はアフリカにいた女性だと言うでしょ」
「そのアフリカにいた女性のようにジャワにもいたし、中国にもいた。ヨーロッパにもいた。悪魔が多いのは、そういう原人がいた場所と比例する」
「絶滅した別の人類が悪魔の系譜なのですか」
「アフリカでも、もっと色々いただろう。猿から人になりかけの状態の種がな。だからアフリカが一番悪魔が多い」
「はい」
「なぜ絶命したと思う」
「さあ、その後、対応しなかったとか、食べるものが違っていたとか。場所が悪かったとか」
「殺されたのだろう」
「はあ」
「それが悪魔の始まりじゃ」
「ものすごく眉毛に唾ものですねえ」
「こういうものには神秘ごとはない。リアルな何かがあったのだ」
「悪魔って、ちょっと獣的ですねえ」
「猿に近いからじゃ」
「はい」
「人は猿まねがうまい。猿が人のまねをするよりもな。なぜなら、人も猿なので、うまいも何も、そのままじゃ。今いるその辺の人々を見れば分かる。猿だと思えば、猿に見えるはず」
「猿が悪魔なのですね」
「猿から人になりかけ、そこで果てた原人に近いものほど強い獣性がある」
「しかし、一般の悪魔じゃないでしょ。今、言われているような悪魔じゃ」
「悪魔は霊じゃ」
「旧人類のままでは、今、生きていけないですからね」
「だから、霊体で生きておる」
「一般性がありませんが」
「だから霊長類という」
「終わりましたね」
「うむ」
 
   了


 


2017年5月28日

小説 川崎サイト