小説 川崎サイト

 

一休と利休

 
「人は利で動く、理ではなくな」
「はい」
「商人は利で動く。利益が出んと商売にならぬ。食べてはいけない。しかし利益は理に適ったものじゃ。だから問題はない」
「理とは何でしょう」
「道理に適ったもの」
「はい」
「利に走りすぎると理が弱まる」
「はい」
「しかし、人は利に走るもの」
「そうですねえ。その話は理に適っています」
「まあな」
「はい」
「利に走らずに、休んでおる人がいる」
「はあ」
「しばし、利は休み。利を休んだ商人でその名は利休」
「そのままですねえ」
「休んでおるだけ。だから怖い」
「一休さんもそうですねえ」
「そうじゃ、休んでいる人は怖い」
「どうしてですか」
「もっとえげつない利を隠し持っておるため。懐に刃をな」
「はい」
「一休はしばし休んでおるだけ。ひと休みなのでな。まあ、身体を休めているだけじゃ。休憩」
「これはどういうお話でしょうか」
「まあ、人は私利私欲に走りやすいが、理に適っておれば、それでよろしいということじゃな。しかし、理に適わぬことをして利を得ると問題。という程度で、それ以上の展開はない」
「あくどいことをして儲けたり出世しちゃ駄目程度ですか」
「と思っていても人は利に走る」
「どうしてですか」
「いい話だと乗りやすい。地位も名誉も手に入りそうな話だとな」
「利の囁きですね」
「人は利に乗りやすいので、利で誘うとほとんどの人間は乗るはず。簡単な話じゃ」
「でも利を休んでいる利休は乗らなかったのでしょ」
「真意は知らぬが、うまく付けた名だと感心しておる。利は消せぬが休ませることはできる。隠せばいいが、隠していることを悟られる。だから利はあるが休んでおるように見せる。利のない人などおらんからな」
「しかし、利休は休ませていた利を最後に見せるのでしょ。だから殺された」
「その心境は分からぬが、天下人の秀吉は感じていた」
「何を」
「天下人を見下ろしたと俗説ではある」
「はい」
「理の人は利の人を見下す」
「天声人語みたいですねえ」
「親しまれているのは一休じゃ、利休ではなくな」
「利休ではなく、理休がいいのでは」
「理休か、そんなもの世の中に溢れかえっておるではないか」
「ああ、そうでした」
 
   了




2017年6月15日

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