小説 川崎サイト

 

寝入りばなの妖怪

 
「最近何時頃お休みになりますか」
「休むとは、寝ることですね」
「そうです」
「最近ですか」
「そうです」
「覚えていませんが、大体昨夜と同じような時間になったとき、寝床に入ります」
「何時ですか」
「十一時頃でしょうか。これは最近です。以前はもっと早かったり、遅かったりしますが、一応時計の針が十一時近くを指すと、そろそろ寝る時間かと思うようになりました」
「じゃ、最近は十一時に消灯ですね」
「いや十一時前のこともありますよ。時計を見たとき十一時にはなっていませんが、非常に近い。十時四十五分とかね。このとき、疲れているようなら、もう寝ます」
「時計を見るタイミングで決まるわけですか」
「そうです。ずっと見ているわけじゃないですよ。目の前にあるので、いやでも目に入ります。大きなアナログ時計です。壁時計です。たまに見ていますが、時間を知るために見ているわけではなく、手元のパソコンとか本とかを見ていて、疲れてくると、目を逸らしたときでしょうか」
「はい」
「十一時を過ぎていることもあります。これは時計を見なくても、何となく分かります。夜更かしをしているとね」
「時計を見ないでよく分かりますねえ」
「十一時には見ていなくても、その前に何度か見ていますので、そこから計算すれば、十一時を越えていること程度は何となく分かります。敢えて確認しないのは、熱中しているためでしょうねえ。もう少し起きていたいとね。途中で寝ないで、区切りが付くまで。それで一時間か二時間ほど眠るのが遅くなることもあります。十一時に寝ているはずなのに、十二時や日が変わっての一時頃寝たりね。従って最近は十一時に寝ているといっても、毎日じゃないのです。ただし一時間前の十時に寝ることは先ずありません。余程疲れているときでしょう。普通のときなら、そんな時間、蒲団に入っても眠れませんから、またすぐに起きてきます。それで無駄な努力になるので、できるだけ十一時近くまでは起きています。眠ければ別ですがね。だから十一時に寝るようにしていますが、そうでない日の方が本当は多いのです。本当は十一時に寝た日などなかったりしますよ。数分前とか、数分後とか」
「寝入りばなに出る妖怪の話をしようとしていたのですが、気が削がれました。そんなに丁寧に寝る時間を聞かされたのでは」
「そうなんですか」
「もいいです」
「あ、そう」
 
   了


2017年7月7日

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