小説 川崎サイト

 

コーヒーを飲みに行く

 
 これといって行くところはないが、村田はコーヒーが好きなので、コーヒーを飲みに行く。コーヒーなど家の前の自販機にあるし、コンビニで淹れ立てもある。しかし煙草を吸いながら、ゆっくりとコーヒーを飲みたい。これは茶の湯の心得でも何でもない。
 これといって行くところがないのだが、何処かへ行きたい。しかし目的がないと行けない。その目的地を喫茶店にするといい具合になる。茶店だと思えばいい。そこへ行くまで、ものすごく疲れ、一服したいほどではないし、茶店は途中にある休憩所で、休憩してから目的地へ向かう。しかし最初から目的地が茶店だとすると、休憩のために向かうようなものだ。
 喫茶店へ行くだけが目的で喫茶店へ行く。村田は最初、ちょっとおかしなことをしているような気になったが、そんなことをとがめる人はいないだろう。酒代や外食に比べれば安いものだ。
 最初は近所にある喫茶店だったが、その近くにもあり、さらにそこから足を伸ばせば別の店もある。所謂梯子というやつだが、一店から一店までの距離が短すぎると、さっき飲んだばかりなので、それほど欲しくはない。間が必要なので、喫茶店の梯子はできない。
 その間は日に三回程度だろう。朝昼夕と、薬を飲むように。薬は食後に飲むことが多い。漢方薬などは食間だ。
 それで、家で食べる三度の食事後、喫茶店へ行くようにした。いくらコーヒーが好きでも立て続けに飲んではうまくない。間が必要なのだ。間が。
 近所の店へ日に三度行くわけにもいかないので、残る二店は少しだけ遠くなるが、特に昼食後に行く店はかなり離れた場所でもいい。まだ入ったことのない店を探し出すのもいいし、バスや電車に乗って、遠くまで行くのもいい。
 目的地が喫茶店だけとはいえ、そこへ行くまでの過程がある。道沿いの景色を見ることが目的ではないが、それも付録で付いてくる。見ているだけではもっいないので、カメラを持ち出し、撮してみたりする。ただ単に歩いているだけでは暇で仕方がないためだ。
 さて、村田は喫茶店で何をしているのかというと、当然コーヒーがメインなのだが、つまむものが欲しい。これはケーキとかではなく、コーヒーを飲むだけでは暇なので、新聞を読んだり、本を読んだりする。その方がコーヒーをちびちびやれるし、煙草もうまい。いずれもコーヒーの当てのようなものだ。それで、店から見れば、本を読みに来る客のようになる。よくいる人だろう。
 本といっても好みがあり、一冊読めば次のが読みたくなるが、いい本があるかどうかは分からない。いい本を買った場合は、数日は楽しめる。悪い本を買ってしまった場合、少し苦しい。だから選択肢が必要になる。
 そして鞄にはカメラと煙草と本を入れるので、それに合ったようなものを買う。これはコーヒーとは直接関係がない。
 コーヒーを飲みに行く。それだけのことだが、結構関連する事柄があり、コーヒーとの繋がりはほとんどないのだが、核になっているのはコーヒーだ。
 コーヒーなど小さなネタだが、核となるものは意外とそんなものかもしれない。
 
   了


2017年7月16日

小説 川崎サイト