小説 川崎サイト

 

状況劇場

 
「状況が変わってくると対応も考えなくてはなりませんなあ」
「状況ですか」
「数年前とは違うでしょ」
「そうですか」
「十年前、二十年前ならもっと違いが分かりやすいかもしれません。その間、ほぼ変わらぬものもありますがね。私が言っているのはもっと個人的なことです」
「そうですか」
「状況が変化しました」
「はい」
「それで、こちらも変化しようと」
「当然でしょうねえ」
「そうでしょ」
「はい」
「結局時代の変化と私の変化が違っていたようなので、時代に合わすわけじゃありませんが、それなりに対応しないといけない。私はあまり変化していません。これが実はいけない。だから、私が変わらなかったのがいけなかったのです」
「相撲の立ち会いでの変化は嫌われますよ」
「その変化ではなく、進歩のようなものです。いい風に変わるのとは少し違いますが、まあレベルアップでしょ」
「つまりあなたはレベルアップしなかった」
「ああ、まあ、それが最大の問題でしょう。それなりに努力はいたしましたよ。だから、これは諦めるしかありませんが、さて、ここからです」
「何が始まるのですか」
「状況が変わってきましたから、私もそれなりの対応を考えることにしたのです。これは構え方でしょうなあ」
「はい、お好きにどうぞ」
「私は変わらないのに、世の中が変化する。状況が変化する。それに即した構えなり態度を構築していく必要に迫られました。意識改革も当然必要です」
「はいはい」
「これはですねえ。時代や人に取り残されないように私も進歩していくというのとは違うのです。組み替えです」
「じゃ、あなたのレベルは変わらないと」
「残念ながら、そこは弄っても、それ以上進歩しません」
「じゃ、何とか時代に合わせるということですか」
「違います。合わすのではなく、態度を変えるのです」
「要するに、あなたがもっとしっかりしていれば、そんな考え方などする必要はなかったのでしょ」
「痛い」
「まあ、誰もが痛いですよ。今の状況に合った人などそれほどいるとは思いませんから」
「そこからが闘争です」
「逃走ですか」
「違います。戦いです」
「はい」
「この戦いの場を私は状況劇場と呼んでいます」
「何処かで聞いたことのあるような」
「これは私の一人芝居ですがね」
「素直に認められたらどうですか」
「何を」
「それは面と向かっては言えませんよ」
「あ、そう」
 
   了



2017年7月17日

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