小説 川崎サイト

 

魔界の蓋

 
 魔界の蓋はすぐそこにあり、いつでも開くのかもしれない。そんな身近なところにあるのなら、遠くまで探しに行く必要はない。それは魔界はその人とリンクしているため、場所はその人と関わるのだろう。
 夜中、トイレに立ち、トイレのドアを開けると、そこは魔界だった、などが頻繁にあれば落ち着いて用を足しにいけないだろう。そのため、魔界の蓋はトイレのドアのようにあちらこちらにあるわけではない。
 ただし、夜に一度もトイレへ立たない人が、その夜中に限りトイレへ行ったとする。こちらの方が魔界の可能性はあるが、それはトイレではなく、布団から出たとき、既に魔界が始まっていたのかもしれない。
 魔界はその人にくっついており、みんなそろって魔界入り、などというようなことはないはず。おそらくその人にしか分からない世界だが、その意識を共有している人なら、数人連れだって魔界入りできたりする。
 魔界の蓋は蓋なので、普段は閉まっている。そしてそれが蓋だとは誰も分からない。トイレのドアが魔界の蓋だと思わないように。
 そのため、蓋の形をしていないはず。これは視覚的に分かりやすく言うためだろう。もし蓋なら、それはドアとは少し違う。缶の蓋もあれば、瓶の蓋もある。そして蓋の多くは簡単な仕掛けのはず。
 魔界の蓋はマンホールのようなもので、ただの円形の鉄板だったりする。これはトイレのドアよりも使い勝手が悪いが、マンホールなど始終使うものではない。何かの作業のとき、その蓋を開ける程度。しかし、開けようと思えば、力はいるが開くだろう。引っかける道具もいるかもしれないが。
 魔界の蓋がどんな形をしているのかは分からない。なぜなら、そんな物理的な蓋ではないためだろう。この蓋もその人とリンクしているようなものだ。とんでもないものが魔界の蓋だったする。蓋なので、開けることができるので、それは自分で開けているようなものだ。
 先ほどの夜中にトイレに立つというのは、何かに誘われたのだろう。だから自発的に魔界に行こうとしたわけではないが、誘われる要因があったはず。世の中には様々な誘いがあるが、その中に魔界へのお誘いもあるのだろう。ただ、普通の神経では断る。それ以前に頭からはねつけたりしそうだが。
 魔界はその人の中にあるのかもしれないが、人の中とは体内になり、これは視覚的に分かりにくい。体内の何処へ入るのかとなると、これはカテーテルやミクロの決死隊のような話になる。
 ただ、その人の記憶とか、そっちの方は、意外と脳内にはなく、外部記憶装置のようなものと繋がっているのかもしれない。だから、そちらへ入り込むのだろう。
 魔界、それは何を差すのかも、本人次第。どちらにしてもあまり健全なものではなさそうだ。
 ただ、何気なく開けた蓋が魔界の蓋の場合があるかもしれない。
 
   了



2017年7月24日

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