小説 川崎サイト

 

納涼公園

 
 その夜も暑く寝苦しいため、富田は外に出てみた。そんな時間に外に出る用事はないため、珍しいことだ。最近は夕涼みで表に出ている人もいない。もしいたとしても住宅地の角で、立ち止まっている人がいると不気味だろう。昔からの顔見知りだけが住んでいる町内なら別だが、新興住宅地ではそうはいかない。顔を合わす機会のない家族も住んでいる。それに、この周辺はマンションやアパートが多くあり、不特定多数の人が行き交う都会と変わらない。
 富田は通りに出てみたが、奥まった場所のためか風が来ない。少し広い場所に出ると公園がある。児童公園だ。当然誰もいない。ベンチがあるので、そこに座ろうとしたが、ここへは入ったことがない。うかつに踏み込んではいけない場所ではないが、子供と親ぐらいしか来ない公園で、それ以外の人が入り込むと不審がられる。用もないのに公園にいるからだ。公園は建物に囲まれ、無数の窓から無数の目の集中砲火を浴びる。実際にはどの家も窓も、窓際まで行くのは希だろう。それに窓から外を見ていることをさらに見られている。
 しかし、すぐそこに住む富田なのだから、公園に入っても、別にいいはず。近所の住人なのだから。しかし、近所の人だから安全だという保証はない。
 だが、道路上で立ち止まっているよりはいいだろうと思い、公園内に入った。あまり手入れがされていないのか雑草が生い茂っている。
 回り込むようにして入り口から入ったため、すぐそこにあったベンチから遠ざかった。そしてブランコと滑り台の間にあるベンチを見たとき、それはベンチではなく人だった。ベンチよりも座っている人の方が目立ったためだ。
 富田はどきりとした。いつの間に侵入したのだろう。富田が入り口へ向かっているときだろう。入り口は三方にある。暗いので来るのが見えなかったのかもしれない。
 しかし、富田はどう対応していいのか分からない。足も身体も顔もベンチへ向かっている。だから座っている先客に向かっているのだ。ここで方向を変えると避けたように見られる。それで、そのまま直進した。
 座っているのはステテコとランニングシャツの老人で、蚊よけのためか団扇を持って座っていた。富田と同じように涼みに来たのだろうが、時間は結構遅い。
 富田は軽く会釈すると、老人も軽く頭を下げる。
 しかしその横に座るわけにもいかないので、そぞろ歩きをするような感じで鉄棒の方へ逃げた。
 鉄棒の下には草が多く、これでは使えないだろう。鉄棒に触れてみるが、水銀灯の明かりだけでも錆びて茶色いことが分かる。
 その後ろ側に出入り口があるので、柵をまたがなくても、公園を抜けることができた。
 これが実は怪談なのだが、くどく説明すると、そんな児童公園など、存在していなかったようだ。
 
   了




2017年8月4日

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