小説 川崎サイト

 

思い

 
 思いというのはいつまでも残るものだが、消えてしまう思いもある。色々なことを思っていたのだが、新しいものが現れ、それで古い思いはお留守になったり、忘れたりする。またはもう思うようなことでもなかったり。この場合の思いは感情だろう。その感情が消えると思いも薄まり、もう思わなくなる。感情がそれに乗らなくなり、静まるのだろう。
 長く思い続けていることでも、いつの間にか空念仏になり、意味は失われていないのだが、感情が消えている。
 ただ、そういう思いは完全に消えてなくなるわけではなく、感じなくなっているだけで、底の方でまだ影響を及ぼしているはず。自覚なく。
 悪い思い、いけない思い、辛い思い。やってはいけない思いなどは封印することもある。自ら禁じ手とし、そこはもう触らないし、それを使わない。そしてその思いを理由にしない。
 しかし、その封印したものや、忘れていた思いが急に湧き出すこともある。封印したことさえ忘れていたのだろう。もう封印しなくても、意識に上がらないし、その感情も以前ほどではなくなると、封印の必要がないためだろう。
 しかし、以前なら封印もので、その思いは捨て去っていたことでも、今なら軽くできることもある。そのときは無理な思いだと諦めていたことでも、できてしまう。それだけの条件ができたのだろう。何の条件かは分からないが、すんなりと思いを遂げることができる障害が消えたのだ。
 その思いが変わっていなければいいのだが、思いが可能になっても、もうその気がなくなっていることもある。
 また、そんな思いとか、重そうなこととは思えなくなり、簡単にやってしまえることかもしれない。だから思いを遂げたという実感もないため、あまり楽しくはないが。
 変わる思いもあれば変わらぬ思いもある。また実現が難しい場合、これは夢になる。そして夢は夢のまま残しておく方が夢があっていい。何でもかんでも遂げてしまうと、どんどん夢の在庫が減る。だから夢を遂げた人ほど夢が少なくなる。
 そして新たな夢を探すのだが、どんどんそれは難しくなる。それほどの思いが生まれにくいためかもしれない。特に大きな夢を果たしてしまうと。
 新たな夢、思いを胸に抱けるかどうかは本人次第。なぜなら夢とは個人的なもので、思いや願いが違うためだろう。だから夢に大小はないし、レベルはない。本人が思えるかどうかの問題だ。
「思い」それを思うのもまた思いだ。
 
   了


 


2017年8月18日

小説 川崎サイト