小説 川崎サイト

 

静観好き

 
「分かっているだろうねえ」
「はい」
「ことがおこった」
「はい」
「じゃ、どうする」
「え」
「なにをすればいいか」
「そうですなあ」
「分かっているはず」
「何をすべきかは心得ておりますが、いざとなると、それは難しいかと」
「このときのために考えていたことがあるだろ」
「はい、色々ございましたとも」
「一番いい策を決めたではないか」
「そうなのですが、二番目の策を今回は使うべきかと」
「あれほど検討した結果、一番になった策ではないか。なぜ二番目の策じゃ」
「どちらかと申しますと、三番目の策がふさわしいかと」
「三番目は無策で、策を弄せず、じっとしておる策のはず。そんなもの策でも何でもない」
「二番目の日和見策よりも安全かと」
「何が安全じゃ」
「日和見は動くことがあります。三番目は何もしないということで、動かない方が安全です」
「一番目の策は打って出ることじゃろ。そのための準備は既に整えておる。動かず、じっとしておる方が危険なので、その策が一番になったのじゃ。それを今とるべきだろ」
「そうですなあ」
「頼りないのう。一番目の策に出ようじゃないか」
「少し自信が」
「勝算はあるはず。それは十分計算し尽くしたこと。何処にも不安材料はない。今すぐにでも出ないと、手遅れなる」
「そうなのでございますがねえ。どうも様子が計画とは違うようで、かなり手強いかと」
「そんなことは最初から分かっておるじゃないか」
「士気、気勢が想像以上に高くて」
「ん」
「流れが強く。追い風のようでして」
「そう感じるだけじゃ。それを臆病風に吹かれたという」
「はあ、まあ、そうなんでござりますがね。いざとなると、心配で心配で」
「ではどうすればいい」
「二番目の日和見策で行きましょう」
「出遅れて、手遅れにならぬか」
「そうなったときは静観していましょう」
「何をなすべきか」
「だから、今、述べました」
「何も決めておらぬのと同じじゃないか」
「では、お一人でご判断を」
「まあ、待て」
「そうでしょ。だからここは私どもにお任せを」
「頼りなさげで心配じゃ」
「はい、心配することが実は最大の策なのです」
「分かったようなことを」
「策士とはそんなもの」
「もっと威勢のいい策士を雇うべきだった」
「はい、しかし私は本当のことを申しているだけですので」
「では、そなたが薦める第三の策にするか」
「今回の雰囲気では、静観し、守備に徹するのが得策かと」
「分かった」
 
   了

 


2017年8月25日

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