小説 川崎サイト

 

昼寝のあと

 
 立花は夕方、眠りから覚めた。長い昼寝だったようだが、それが分かるまで間があった。
「ここは何処だろう」と思うほど記憶を失っていないが、「ああ、まだやっていたのだ」と意識を戻した。つまり「まだ自分をやっていたのだ」と。
 余程深い眠りに入っていたのか、夢の中から抜け出した感じだが、見た夢は覚えていない。ただ、もの凄く遠くへ行っていた感じだけは覚えている。それを思い出したとしても、大して意味はない。何かに役立つわけでもないし、もの凄いことが隠されているわけでもない。
 いつもの自分の部屋。見慣れたカーテンの模様。壁際の家具。ドア。天上、少し散乱している床の上。それが新鮮に見えたわけではないが、主人公が帰って来るまで休憩していたような部屋だ。
 目覚めたときは我に返るが、そんなことなど意識しないだろう。単に目が覚め、朝が来たと。そして起きて一日を始めないといけない程度。それらさえ考えないで、寝床から出て当たり前に動き出す。部屋にあるものは、特に変化がなければ見もしないだろう。時計を見る程度だ。
 立花のいつもの目覚めもそんなものだが、昼寝から起きたため、勘が狂ったのだろうか。自分は今まで何をしていたのかと。
 しかし、単に昼寝をしていただけだと気付いたとき、いつもの立花に戻り、その日の電車に途中から乗るように、日常の用事をやり出した。
 そしてしばらくしても、何か気になる。
 目覚めたときの違和感だ。「ああ、まだ自分をやっていたのか」と感じた、その意味が気になる。別人になって何かをしていた夢でも見ていたのだろう。思い出せないが、きっとそうだと。
 いつも朝の目覚めでは切れ間がない。いつもの自分がいつものように目が覚めたので、いつものように起きる程度。しかし、その昼寝のあとは違っていた。
 これはきっと夢のためだろうが、それを覚えていないので、違和感があるのだろう。この場合、そんな夢を見ていたと仮定しての話だが。
 本当は夢など見なかったのかもしれない。覚えていない夢は、見ていないのと同じ。
 外に出ると、夕闇が迫っているのか、夕焼けが綺麗だが、よく見ると紫がかっている。まるで空が病んでいるように。
 ここでも違和感が残っているのか、本当にここは自分が住んでいる町なのかと、ほんの少し疑ってみたりする。しかし、印象が違う程度の問題だとは最初から分かりきっているので、気にすることはないのだが、少しだけ気になる。
 それは夢から覚めたとき、目覚めたのは本当に自分だったのかどうかだ。違うものになって目覚めるわけがないのだが、いつもの自分のように思うものの、そうではないようにも思われる。単に思っているだけなので、札入れから免許証を出し、確認する。見覚えのある写真だ。それを写したときのことも覚えている。久しぶりに髭を剃った日だ。
 この違和感は夜更けまで続いたので、寝る前、朝が心配になってきた。
 そして、その朝が来た。
 立花は目が覚め、何食わぬ顔で起きて一日を始めた。昨日の昼寝後に考えていたことさえ、もう忘れたかのように、気にも留めず。
 
   了


2017年9月3日

小説 川崎サイト