小説 川崎サイト



サービスしません

川崎ゆきお



「結局は儲からないといけないわけですか」
「まあ、残念ながら、そういうことで、納得してください」
「幅広い豊かなサービス精神はどうなるのですか」
「それは、キャッチコピーです」
「もう一度理由を聞きたいのですが、まあ、今後のためにも」
「はい、サービス停止です。それであなたの仕事がなくなったので、終わりにしたいというのが理由です」
「でも、最初は収益よりも、そのサービスが必要だから頼まれたわけでしょ。もう、本当に必要ないのですか。それでいいんですか?」
「残念ながら、あのサービスを必要とする人は少ないのです。また、何がなくとも必要なものではなかったのです。まあ、アクセサリーのようなもので」
「でも、あれがなくなると、豊かなサービスが誇れなくなるのでは」
「こういう話をする必要はないのですが、もうあのキャッチコピーは外しても大丈夫なようなので……」
「結局は儲けを上げたいのですね」
「まあ、営利集団ですからね」
「それを言えば、おしまいですねえ」
「切り捨てるわけではありません。整理です。事業の見直しです。より人気のあるサービスに力を入れる方針です」
「どこも同じなんですねえ」
「うちも厳しいですからね。食い合いですから、この業界は」
「じゃあ、僕は失業ですか」
「今まで、協力してもらってありがとうございました」
「協力じゃないですよ。仕事で来ていたのですから。ここで駄目なら、他でも駄目でしょうね。あのサービスはもう、何処もやっていないようですから。ここだけだったんですよ」
「あなた一人のために、あの部門を継続していたようなものです」
「そう考えると、ここは良心的だったんだなあ」
「はい、前任者が辞めたので、こういう結果になり、誠に残念ですが、ご理解お願いします」
「ああ、理解しましたよ。でも、あの人、どうして早く打ち切らなかったのでしょうね」
「あなたに悪いと思ったからでしょう」
「そういう人だから、担当から外されたのですね」
「はい、今の状態が正常です」
「分かった。僕も正常に戻るよ」
 
   了
 
 



          2007年5月8日
 

 

 

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