小説 川崎サイト



一人の世界

川崎ゆきお



 ある日曜日。佐山は目覚めると昼前だった。よく眠った。一週間の疲れが溜まっていたのだろう。
 家の中は佐山一人。家族は出掛けている。よく晴れているので遊びに出たのだ。
 佐山も誘われたが睡眠を選んだ。
 仕事が忙しいわけではないし、ハードな仕事でもない。だが、人疲れする。気疲れかもしれない。その疲労が一週間分溜まっているのだ。
 何もしない空白を過ごせば回復する。今日はその日なのだ。
 もう少し寝転んでいたい。睡眠は十分とったが、起きるのが面倒だ。幸い家族は留守なので、邪魔をする者もいない。
 しばらく目を閉じた状態で、じっとしていたが、眠れない。逆に横になっているのが苦痛になる。そこまでくると佐山も納得できる。もう起きても大丈夫なのだ。
 部屋が明るい。よく晴れているのだ。カーテンを開けると目が痛い。
 佐山は居間のテーブルで牛乳を飲み、タバコを吹かす。
 佐山は思い出す。こういう日は何度もあったことを。その時、何をしていたのかを思い出す。
 佐山には決まったコースがある。こういう時用のコースだ。
「また、あのコースに乗るのか」
 佐山は気が乗らない。
 しかし、いずれはそれをやるのだから、抵抗しても仕方がない。他の行為があるのなら、そっちをやればよい。
 今日は何もない。何もないのなら、あのコースに乗るしかない。
 佐山はテレビの番組表を見た。最後の抵抗だ。しかし、興味のあるものはやっていない。
 録画した番組がかなり溜まっているが、ボタンを押すのが面倒で、見る機会はほとんどない。
「やはり、乗るか」
 佐山は諦めがついたようだ。
 押し入れの奥から日本刀を取り出した。ジュラルミン製のおもちゃだ。
 居間のテーブルを隅に寄せ、日本刀を構えた。
「いざ」
 佐山は一人斬る。二人目を交わし、胴を払う。
「天守へは誰も寄せつけぬ」
 佐山は槍を払い落とすが、弓矢が肩に刺さった。
「うっ」
 ダメージを受けながらも佐山の死闘は続く。
「あっ」
 佐山は演技ではない声を発する。
 カーテンを閉めていなかったのだ。
 
   了
 
 


          2007年5月13日
 

 

 

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