小説 川崎サイト

 

招かざる客

 
 暮れの押し迫った頃、貧乏神がやってきた。招かざる客だが、他に客はいない。本村は友達がいないので、客も来ない。年賀状は一通だけ来る。郵便局からだ。これは触れば分かる。薄い。
「今年はどうですかな」
「何を聞きに来た」
「今年は越せそうかと聞いておる」
「君が来なければ越せる」
「ほう、それは何より、それじゃわしの出番がない」
「だから、君が来るから越せないのだ。来ただけで、もう駄目だ。越せそうにない」
「わしは何もしておらんぞ。それよりも心配になって様子を見に来たほど。親切な貧乏神だとは思わんかね」
「思っているのなら、来ないで欲しい。越せるものも越せなくなる」
「じゃ、どうすればいい。越せそうにない年に来ればいいのか」
「その方がましだ。どうせ越せないのだったら貧乏神が来ても同じこと。一つ貧乏が増えても、もう大した違いはない。越せないのだからな」
「毎年越せなかったのじゃないか」
「だから、君が来るからだ。そこを理解しろ」
「そう言わず来させてくれ、来るのは年の瀬だけ。年に一度の初詣じゃ」
「詣でなくてもいい」
「いや、貧乏神の間では、君の貧乏には味があると言って、参りに来るやつもおるが、わしが止めておる」
「それはいいことだ。何人もの貧乏神に来られたのでは被害が大きい」
「貧乏でいる方がいいぞ」
「何を言い出すのだ」
「だから、君に幸せをやるため、毎年来て貧乏を与えているんだ。プレゼントじゃ。サンタのようなものじゃ」
「何が幸せだ」
「貧乏の方が幸せだということがまだ分からんのか」
「そうか」
「隣の木下さんの家は火の車じゃ」
「え」
「だから、お隣の木下さん」
「金持ちの家だ」
「あそこは毎年福の神が来ておる。だから不幸が続いておるだろ」
「そうだなあ。もめ事が絶えないようで、喧嘩する声が聞こえてくる」
「福の神が来たからじゃ。毎年な。福の神は火宅をもたらす」
「福をもらっているのにか」
「だから災難を招く」
「うむ」
「だから感謝しなされ。こうして来てやっているんだから、邪険にするでない」
「ああ分かった。毎年なので、もう慣れた」
「ところで、今年は年を越せるといったのう」
「そうだ」
「いいことがあったのかな」
「うむ」
「それで無事に年が越せると」
「始まったな」
「何も始めない。聞いておるだけじゃ」
「平穏に越せる。余裕を持って」
「それはいけない。じゃ、一つプレゼントをして帰るとするか」
「覚悟はしている」
 貧乏神が帰ったあと、物入りになり、余裕どころか、マイナスになった。無事に年を越せなかった。
 本村はカップそばだけの夕食で年越しをし、百均のガムのような餅で雑煮を作り、新年を迎えた。
 本来なら大きな天ぷらの海老が乗っている年越しそばを食べ、朝は予約していた五段組のおせち料理と目玉の飛び出した大きな鯛で元旦を迎えるはずだった。
 
   了





2017年12月31日

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