小説 川崎サイト

 

フェチ

 
「今年も一つ年を重ねましたなあ」
「いや、まだ新年始まったばかり、数日重ねただけですよ」
「いや、去年の分」
「しかし、一年ぐらいでは年は感じないでしょ」
「それもそうですが」
「三年前との差も、分かりにくい。これは健康状態を言っているだけで、他の因子を外した感想ですがね」
「じゃ、何年ほど」
「一気に年をとるわけじゃなく、徐々に来ています。ガクンとある日きついことになることもありますが、大概はじわじわときているので、そのスピードがよく分からないほど」
「私は数年前、病気をしましてねえ。それがなかなか治らないとき、年を取ったと感じましたよ。その後、徐々に治り始め、やっと去年あたりから病は消えました。すると、若返ったようになりましたよ」
「病のせいでしょ」
「そうです。年を取っていくのは病気じゃありませんからね」
「今は本当に治ったのですかな」
「はい、以前のようになりました。まあ、それで普通なんでしょうねえ。特に元気というわけではなく」
「精神的にはどうですか」
「ああ、もう年ですなあ。これから先、何かやろうとしても、時間がない。だから短期でできるようなこととか、どうせ今からでは無理なことでも、一歩一歩先へ行けているだけでも、まあいいかという感じで、急がなくなりました。急いでもどうせこの年では辿り着けませんから」
「ほう、それは結構なことで」
「そのためか、今年の抱負を作りませでした。どうせもう大したことはできませんからね」
「でも、何かやっておるのでしょ」
「残るものは残ります」
「やった結果ですか」
「いや、未だにやっていることがです」
「やれることが減り、やりたいことが減り、その中で、まだやり続けているものがあると」
「そうですなあ」
「本能的なことですかな」
「それはベースで、誰にでもあるでしょ。そうじゃなく、不思議と若い頃から続いていることがあるのです。これは大したことではないし、それを目標にしたこともありません」
「ほう、何でしょうなあ」
「誰にでもあるでしょ」
「悪趣味とか」
「それに近いですが、決心しなくてもできることです。しかし、それをメインだと思って意識しだすと駄目になりますから、そっとしてます。だからこれは公言できません。それに言いにくいですし、言ってもあなたには理解できないと思います」
「ますます気になる」
「いやいや、話題にしては駄目な話なんですよ」
「じゃ、聞きますまい」
「あなたにもあるでしょ」
「確かにありますが、それは」
「それは」
「ちょっと言えません」
「そうでしょ」
「確かに言いにくいですなあ」
「結局私的なものが残るんですよ。決してその人にしか分からないことじゃなく、もの凄く一般的なことでも、接し方が私的すぎるんでしょうねえ」
「何を差しているのか分かりませんが、私事は意外と残りますなあ」
「私は数年前まで病んでおりまして、身体がえらかったのですが、そのことだけはできました」
「ほう」
「いやいや、やめておきましょう。ついつい何をやっていたのかを言い出しそうになりますから」
「それは危険ですなあ。これ以上聞くのはやめましょう。私にもそのタイプのことがあることを改めて知りました。やはりそれは表に出すとまずいということがよーく分かります」
「はい、有り難うございます」
「いえいえ」
 
   了


2018年1月9日

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