小説 川崎サイト

 

流浪の果て

 
 寄場と言われている場所がある。溜まり場ともいい、あまり良い場所ではない。流れ者とかが身を寄せる場所でもあり、土地を追われたり、逃亡した農民、流民が一気に集まることもあるらしい。
 ただこの寄場、一箇所に集めるための施策のようなもので、散らばっているよりも、扱いやすい。
 しかし場所的には街道筋とか、船着き場にある。当然川港にも。これは流通の仕事が多くあるためだろう。
 岩谷家は没落し、その一族郎党は、この寄場に身を寄せた。さる大名家で筆頭家老を務めていた重鎮で、しかもその大名家よりも各上の家系。だから名家だ。
 しかし、よくあるように、この家老は悪家老で、悪事がばれ、無惨な最期を遂げた。ただその功績もあり、大名家の主筋の家系であることも考慮し、その家族は追放だけですんだ。
 この家老には土地があり、領地もあったのだが、当然取り上げられた。しかし、もともとはこの地を任されていたのだから、取り上げるも何も、自分の領地だったのだ。
 出来星大名の家老になっただけでも、惨めだったが、大名家を凌ほどの権勢を振るっていたのだから、取り戻したも同然だが、そのやり口があくどすぎた。
 さて、その家族が流れて着いたのが寄場。そういう連中が小屋がけしている。中には立派な家も建っている。ここは民として認めてもらえない反面、年貢もない。
 悪家老の家族は親切な運び屋の親方の世話で小屋をもらうことができた。親方は荷駄隊を組んで物資を運ぶ仕事。運べるものなら、人でも死体でも運ぶ。この親方、悪家老の家族の顔を知っていたようで、悪いものを運び込むとき、何度も頼んだらしい。
 そのうち、息子達が荷駄隊を手伝うようになり、親方も喜んだ。跡取りがいないし、もう年だった。
 この荷駄隊を守る人達がいる。護衛だ。頼まれた品物なので、盗まれたり、襲われたりすると大変なため。
 悪家老の息子の一人が、その警備隊長になり、多くの男達を従えだした。家老の息子なのだ。こういう指揮は上手い。世が世なら一手の大将。
 配下の連中は悪党と呼ばれ、運送の仕事がないときは足軽として、戦に加わった。傭兵だ。
 そのうち、この悪党の規模が大きくなり、ちょっとした勢力となる。
 そして寄場の小屋に住んでいたこの家族は、寄場のヌシになり、大きな屋敷に住んでいた。それだけの財力を稼いだのだろう。
 そしていつの間にか、豪族規模になり、寄場の屋敷は城に近い砦になった。荷駄の護衛がいつの間にか武力勢力になったのだ。
 そして息子達はもう立派な鎧兜を身に付けた武者になっていた。元々は名門の武家だったので、少しは戻った。
 下克上の始まる頃、彼らは活躍したが、大きな勢力が天下を取ったとき、あの家族達は足軽隊を総動員して、大きな武功を次々に立て、家柄もいいことから一国の領主にまでなれるはずだったのだが、それを断っている。
 もう浮き沈みの連続がしんどかったのだろう。
 そして武家を捨て、寄場時代の荷駄仕事に戻った。あの親切な荷駄の親方が亡くなったので、それを引き継いだようだ。
 昔、寄場に流れ着いたとき、よくしてくれた親方の情けが忘れられなかったようだ。
 それに悪家老だった父を亡くしたあと、この親方を父のように慕っていたようだ。
 
   了
 

 


2018年1月15日

小説 川崎サイト