小説 川崎サイト

 

来る者は拒まず

 
「来る者は拒み、去る者は追う」
「何処かで聞いたことがありますが、それは、来る者は拒まず、去る者は追わずじゃないですか」
「来るものを拒まず、では人が増えます。しかしどうなんでしょう」
「何が」
「必要な人達でしょうか。または気に入った人ばかりじゃないでしょ。嫌な人も入っています」
「それを拒まない腹の大きな人です。包容力や寛容力があるのです」
「来る者ではなく、この人に来てもらいたいという人を探すのがいいのです。それに向こうから来る人はろくな人がいない。たまたま良い人も混ざっていますがね。これはこちらから探し出そうとしていた人だったすると、探す手間が省けます」
「では去る人は追いかけるとは?」
「当然でしょ。こちらでお願いして来ていただいたのですから、引き留めますよ。勝手に来た人なら、勝手に去っても何ともありませんがね」
「でも来る人は拒まぬの人も、来るのを待っているだけじゃなく、同じように探しているはずですよ」
「しかし、去る人は追わずでしょ」
「はい」
「ここが違います。去ります、あっそう、では愛想がない。嘘でもいいから引き留めないと」
「まあ、そうですが、それは去って行く人は仕方がないということでしょ」
「来る人を拒み、去る人を追う人の方が人を大事にしていると思いますが」
「そうでしょうかねえ」
「何ともならない人を受け入れた場合、その来た人のために果たして良い事でしょうかねえ。望まれていない人だった場合、あまりいい感じでは過ごせないでしょ。ところがこちから出向いて見付け出して来てもらった人は、大事にしますよ。眼鏡違いということもありますが、それは選んだ人の責任。来た人の責任じゃない。ところが来る者は拒まずで来た人は、自己責任ということになります」
「しかし、良くいうじゃありませんか、来る人は拒まず、去る人は追わずって。何か良いことがあるから、そんなフレーズができたのでしょ」
「それはおそらくタイプでしょうねえ。お人柄を表す言葉でしょ。ただ私の性分からいいますと、来る人を拒まずの人のところへは行きません。是非来て欲しいという人のところへ行きます。待遇が違いますよね。それに選ばれた人間になります。必要とされている人間にね」
「じゃあ、去る人は追うも、あなたの性分ですか」
「そうです。もし私が去ることになったとき、引き留めてほしいものですよ。あ、そう、じゃ、よりもね。だから私から去る人にも、引き留めます。去る人への餞別です。引き留めても無駄な人でもね。まあ、それなりの事情があるのでしょ」
「じゃ、来る人は拒まず、去る人は追わず、は駄目ですか」
「まず、それを言ってる人が大した人じゃない。中には大人物もいるかもしれませんが、本当は複合型でしょ。まあ、そういう大人物がいうのなら、方便として聞きますがね。本当は違うでしょ、というのを知りつつね」
「それであなたは成功しましたか」
「いや、来て欲しい人から拒否されますし、門を開けていても、来る人はいません。拒みようがない。それに人がいないので、去る人もいない」
「ああ」
 
   了

 


2018年1月19日

小説 川崎サイト