小説 川崎サイト

 

雪だるま


「寒いですなあ」
「冬ですからね」
「大寒波ですよ」
「冬ですからね。夏には来ないでしょ。来て欲しいですがね」
「こういう日は早く帰って何もせず過ごしたいです」
「いつも早い目に帰られているじゃないですか」
「そうですなあ。それに早く帰っても、結局は何もしていませんなあ」
「雪だるまは作りましたか」
「え」
「雪だるまです」
「そうですなあ。珍しく積もっていて、子供が小さなのを作っていたのを見ましたが、まさかこの年ではしゃいで雪だるまなど作りませんよ。もう孫もいますからね。孫に作ってやりたい気はあるのですが、それほど積もっていません」
「作る方がよろしいかと」
「大の大人が雪だるまをですか」
「そうです」
「どうしてまた」
「あれは魔除けなのです」
「はあ」
「だから庭先ではなく、門とか玄関口に置いているでしょ。門松のように」
「何に効くのですか」
「魔除けなので、魔物に」
「聞いたこと、ありませんなあ」
「滅多に雪も降らず、積もるのも珍しいこの地方では、これは効きます」
「でも一晩で溶けそうですよ」
「ひと冬効きます。一度作れば」
「魔物ですか」
「そうです。それが入って来られない」
「溶けても」
「そうです」
「今冬だけですかな」
「そうです。冬に一度作れば、それでいいのです」
「どんな魔物に効くのですかな」
「冬に来る魔物です」
「そんなもの、この地方にいましたか。いや、いるも何も、そんなものいないでしょ。冬になると、そんな魔物が町内をウロウロしている姿なんて」
「魔物は見えません」
「でも、どうしていると分かるのですかな」
「寒鬼のことだと思われます」
「寒気ですかな」
「寒鬼は寒気のようなものですが、天候のことではありません」
「それが魔物で、雪だるまが、それを防いでくれるわけですな」
「寒鬼は寒々しい魔物で、その家を冷やします。気温のことではありませんよ」
「それでどうなるのですかな」
「気持ちが寒くなります」
「はあ」
「風邪の悪寒ではありません。家冷えを起こし、不幸になります」
「それを雪だるまで防げるのですかな」
「家の前でで先に冷たい奴が立ちはだかっていますからね」
「雪だるま、足も手もありませんが」
「雪だるまが既にいると思い、魔物は入れません。先客がいるのでね」
「でも、溶けて消えるでしょ。すぐに」
「魔物は一度雪だるまがいる家を見ると、絶対に入り込みません。溶けても大丈夫です」
「それで、雪だるまを作れということですかな」
「今ならまだ溶けずに雪が残っています。小さくてもいいので、それを作って家の前。マンションならドアの前に置きなさい」
「そんな風習、ありませんが」
「知られざる呪術です」
「おお、帰るとき、雪を集めて、早速作ることにしましょう」
「夜になると吹雪くようです。今夜は冷え込みそうです」
「いい話を聞きました」
「寒い話です」
「はあ?」
 
   了


2018年1月31日

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