小説 川崎サイト

 

国民養生村


 三島は体調が優れないので、養生することにした。国民養生所というのがあり、そこに申し込んで当たった。審査はなく抽選だったようだ。
 南の斜面に建つ施設で、麓まで茶畑が続いている。休暇村のようなものだが、レジャー施設ではない。施設内に目立った建物はなく、廃村をそのまま施設にしている。だから何人かが一つの農家で暮らすのだが、空いている農家の方が多く、一人で来た人は大きな農家で一人暮らしができる。
 その一軒の何世帯も住めそうな大きな農家が本部らしく、そこで食事ができるし、弁当の配達もある。茶畑の丁度真上になり、村時代の畑がそのまま残っている。そこで農作業をしたり、山菜を取りに行ったり、昆虫採集もできる。
 滞在費は無料。
 三島はしばらくして気付いたのだが、若い人が多い。
 養生村なので、養生に来ているのだろう。それはいいのだが、全員公務員。学校の先生が多い。
 三島は中小企業の社員をやめ、仕事を探している最中。そのとき、いろいろと調べているとき、この施設を教えてもらった。仕事先よりも、休める場所がよかったのだ。
 あとで分かったのは、ここは非公開に近いらしい。三島はネットで応募して、当たったので、誰でも申し込めると思っていたのだが、そうではないようだ。この申し込みそのものが隠されていたのだ。
 三島が働いていた会社はIT関係で、そこに友部という青年がいた。彼にアドレスを教えてもらったのだ。
 建て前は国民なら誰でも応募でき、しかも抽選。条件はない。だが、ここに来ている青年の一人に聞くと、誰も応募などしていないし、そんなネット上の申し込みサイトなど知らないという。
 ではここに来ている公務員達は何だろう。どうして入れたのだろう。
 話を聞いていると、ある代議士の名が出てきた。大物だ。その後援会云々と言っている。後援者に対するサービス施設だったのだ。
 同僚だった友部はネットでそこへ潜り込んで、アドレスを得たのだろうか。しかし、簡単に入れた。しかもそれは生きており、メールで丁寧な説明と、ゲストナンバーまで知らせてくれた。
 だから茶畑の上にあるこの村にすんなり入れた。しかしそれまでは全てネット上だけの手続き。
 全員公務員。その中で三島だけが違う。これは何か居心地が悪いが、雨が少なく穏やかな気候の場所だけに、壊していた体調もよくなってきた。
 ここで人を集め、一体何をするのだろう。しかし養生村とあるだけに、あまり元気そうな人はいない。だから看板に偽りなし。
 三島はスマホであのアドレスをもう一度確認すると、アクセスできなくなっていた。ノットファインド。
 もう体調は戻ったのだから、ここから出ることにしたのだが、手続きが複雑で、すぐには済まない。
 引っかかる箇所が何カ所もある。登録番号は分かっているのだが、登録コードというのがもう一つあり、それが分からない。メールにも書いてなかった。
 そのコードがないと、退所の手続きができないらしい。コードを調べる方法があるのだが、それには証明書がいる。それに該当するものがいるのだが、免許証とかでは駄目。
 これでは出られない。
 養生村は怪しくはなく、穏やかな場所で、茶畑の下に港も見えるし、海も見える。平穏そのもの。そして施設といっても村全体がそうなので、囲われているわけではない。
 三島はそんな手続きなどしなくても、簡単に出られると思い、昼の日向に茶畑を下った。
 港は漁港で、バス停がある。来るときもそれに乗ってきた。
 そして無事、帰り着くことができた。
 その後、特に変化はない。
 
   了
 


2018年2月18日

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