小説 川崎サイト

 

うすらひの精


 薄ら氷が張っている。この地方では珍しい。薄ら氷は春先に張る薄い氷、この地方では真冬でも人が乗れるほどの氷は張らない。
 立花は光るものが見えたので、何だろうかと近付いた。稲刈り後、そのまま春まで待っている田んぼで、稲株だけが点々と残っている。当然だが水は抜いているが、水溜まりができる。そこが光っている。しかし、水溜まりの輝きよりも切れがあり、鋭い。滅多に氷など見たことがないので、田んぼに足を入れ、氷の張ってある場所に立った。子供時代なら当然踏んで、割ったりするのだろう。そんな思い出が立花にもある。珍しいのだ。
 その薄ら氷、見る角度が変わっているのに、まだ輝いている。どうも太陽の反射ではなく、内側から光っているようだ。そうなると、かぐや氷かもしれない。竹ではなく、氷。
 立花はドアノックのように、指の骨でコツンと叩くと、ピッツと亀裂が入り、ポコッと割れたが、光はまだある。
 田んぼの水溜まりの氷、数センチも深さはないだろう。
「誰かいるのか」
 立花は気配を感じ、割れ氷に向かい聞いてみた。
「はい」
 いた。
 聞くと氷の精らしい。雪の精と氷の精とでは違うのだろう。
 つまり妖精。
 氷の下から出てき来たのは光り輝く姫。和風だ。小さな人形のような。だからかぐや姫に近い。
 聞くと、名はウスラヒメ。暇らしい。雪が降り、氷が張るような地方ではないので、出番が少ないとか。
 何を待っているのかというと、見付けてくれること。
「出してくれて有り難う」
 当然、何かお礼が来るはず。
「何か願いを叶えてあげます」
 立花はフィギュアものが好きで、いくつかコレクションがある。ゲームのキャラで、エルフが好きだ。
「何か望みを叶えて上げますが、何が良いですか」
 当然この薄ら姫そのものが欲しい。
「それはなりません」
 立花はそれ以外の望みはない。もし何か別の世俗的な望みが叶っても、その副作用というか、弊害のようなものが起こることを知っていた。
「何もないです」
「そうですか」
「じゃ、これで」
「あ、はい」
 立花は田んぼから出て、道に戻り、仕事へ向かった。電車一つ乗り遅れるかもしれないが、遅刻にはならないはず。
 もう一度田んぼを見ると、薄ら姫がずっとこちらを見ている。そして手を振っている。
 立花も手を振る。
 薄ら氷の精、そんなののは見えるわけがない。しかし、薄ら氷が光っているのを見たとき、いるように感じたようだ。
 
   了
 
 
 


2018年2月21日

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