小説 川崎サイト

 

神社跡の家


 都市近郊だが、少し奥にあり、山も迫っている町。そこに妙な場所がある。怪談に近いが、露骨に何かが出るわけではない。そういう気配がする程度。こういう物怪的なことは言って行く場所がない。市役所にそういう課はないが、それに近いものはある。生活課。そこの職員が、ある人物を知っていた。こういうのに詳しいと。それで依頼するこになる。
 そして登場したのが妖怪博士。生活課の人は妖怪博士の噂を知っていた。市では妖怪駆除の経験がないので、博士に投げた。
 しかし、はっきりとしない怪事だが、昨日今日の話ではなく、かなり昔まで遡る。こうなると妖怪の知識とは別の話になるが、そこは市役所だけに昔のことを知る手がかりは多い。図書館や博物館もあるので、そこの人が詳しかったりする。
 はっきりとしない怪談とは災難が起こる家。誰も長くは住み着かない。当然何度もそこに家が建つのだが、逃げ出す。
「それはよくあることですなあ」と、妖怪博士は、そういいう場所は珍しくないと説明する。
 その現場はもう山が間近で、川が二股に分かれる先端箇所。船の舳先のような場所。周囲は住宅地。
「分かりますか、博士」
 妖怪博士は先端に立ち、川を見ている。見えているものをそのまま見ているだけで、怪しいものや気配を感じる能力はない。
 職員はガッカリした。一発で正体が分かると思ったのだ。
 もう一人、市の博物館から、古い時代に詳しい若い人も参加している。
「先生の言われることを調べましたが、異変が起こり出したのはここに村ができる前からなので、ずっとそうなのでしょう」
「神社があったのでは」
「はいはい、その通りです」
「神社跡に家を建てたからでしょ」
「はいはい、そうなのです。しかしそれは迷信のようなものですから」
「しかし、実際には人が長く住めないのはこの場所でしょ」
「はいはい、その通りです。それで神社を建てなのです」
「その神社が廃社になった」
「そうです」
「何を祭っていました。村の氏神様じゃないでしょ」
「それがよく分からないのです」
「つまり、怪しい場所だから神社を建てた。ここは怪事が起こる場所。だから人は住めないので、神様の家を建て、神様を住まわせた。その神社の意味が忘れられたのか、世話人がいなくなったのか、朽ち果てた。その後、ここに家を建てても、すぐに出ていった。怪事のあった家なので、取り壊し、しばらくしてからまた違う人が土地を買い、家を建てたが、同じことの繰り返し」
「その通りです」
「駆除できますか」生活課の職員が聞く。
「無理だから、神社を建てたのじゃから、周囲を囲って、祠でも建てるなり、地蔵でも置いて宅地にしなければよろしい」
「しかし、市がここを買い取るにはそれなりの理由がなければ」
「もの凄くはっきりとした理由じゃないか」
「そうなんですが、怪事が起こるでは」
「怪事の原因は、おそらくヌシじゃろ」
「はいっ?」
「地神じゃ」
「はあ」
「だから人が住むと嫌がる」
「ですから、家を建てるとき、地鎮祭で、地神様に挨拶したはずですが」
「そんな形式だけでは納得せんのじゃろ。地神といっているが、得体の知らぬ何かがおる程度、神でも何でもない。バケモノかもしれん」
「じゃ、妖怪駆除の方法は」
「ない」
「そこを妖怪博士、何とかしてください」
「退治はできんが、鎮めることはできる」
「はい」
「昔の人は、だからここに神社を建てたんじゃ。その間は変事はなかったはず。それに危害を加えるような凶暴なバケモノではないようなので、人さえ近付けなければ大人しくしておる」
「じゃ、やはり市が買い取ることに」
「図書館の分室がよろしいかと」博物館の青年がいうが、すぐに「ああ、人が来てしまいますねえ。立ち入り禁止で、放置できるような施設でないとだめですねえ」
「そのために神社という便利なものがあるんじゃ。だから、再建しなさい。これなら予算も通しやすいだろ」
「検討します」
「うむ」
「しかし、博士、本当にそんな地神、ヌシ、そんなものがいるのでしょうか」
「地相というのがある」
「はい」
「おそらくここはそういう地形、また風の道筋、川が二股に分かれる水の道などが重なり合って、妙な空間をスポット的に立てている場所じゃろう。昔から妖気が湧き出る場所があるのじゃ。それ以上は分からん」
「はい、有り難うございました」
 職員は交通費と謝礼を妖怪博士に渡した。
 その後、市は何もしていない。あの職員の意見が通らなかったため。
 博物館の青年は今も神社を再建をするため、当時の建物がどんなものだったのかを調べている。
 生活課の職員は、そんなことより、妖怪博士を呼び出せたことだけで、満足していたようだ。
 
   了
 

  


2018年3月2日

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