小説 川崎サイト

 

ある会議


「平山さん、今日の会議に出なくてもいいのですか」
「ただのミーティングでしょ」
「でも出ていた方が」
「いや、どうせ賛成です」
「反対でもですか」
「大勢が反対なら反対です」
「じゃ、反対に反対する決議のときは」
「皆さん賛成なら、賛成です」
「はあ」
「だから会議なんて出なくてもいいのです」
「しかし」
「どうせ仕切っているのは大峰さんでしょ。だから大峰さんに従うだけです。大峰さんに反論する人はいないでしょ」
「まあ、そうですが」
「だったら最初から会議などしなくても良いのですよ」
「でも、全員揃ってますよ」
「どうせ、その人達も大峰さんには敵わないので、意見らしい意見も出せないでしょ。その場に居合わせなければいけないようなこともないはずです」
「でも居合わせるのが目的でしょ」
「そうです。それで共犯になります」
「じゃ、平山さんが参加しないのは異議があるからですね」
「ありません。どうせ賛成なんだから」
「でも加わっていないと不審がられますよ」
「話し合わなくても、賛成すると言っているのですから、一番の協力者でしょ」
「ところが、平山派ができつつあるのです」
「ほう」
「下の方のメンバーですがね、平山派が多いのです」
「どうして」
「平山さんが反大峰派だと思われているからです」「どうして。一番の大峰派ですよ。だから説明を聞かなくても、大峰さんの言う通りするとまでいっているのですから」
「参加しないからです」
「え」
「会議に出ないからです。出ていないのは平山さんだけ。だから若手は期待しています」
「何を」
「大峰さんを追い出すためです」
「でも会議のメンバーは全員大峰派でしょ。だから誰も反論しない、会議といっても大峰さんの話を聞くだけなんですから」
「従っている振りをしているだけなんです」
「じゃ、会議のときに言えばいいのに」
「それは無理です。大峰さんの力が強すぎて、全員で反論でもしない限り。一人で手を上げて発言しても跳ね返されますよ。それにそのときも、メンバーは全部大峰さんを支持するでしょ。しかし、本心じゃありません。保身のためです」
「しかし、面倒なことをしないで、大峰さんに任せておけば全て上手く行くわけですから、大峰さんに一任するのが賢いですよ。だから、私は会議に出る必要はないのです」
「これ以上大峰さんに任せたくないというのが実は大勢なのです。特に若手が」
「じゃ、大峰さんの代わりに誰がやるのです」
「平山さん、あなたです」
「まさか、私は一番大峰さんに近いのですよ」
「でもあなたの方が、やりやすいのです」
「馬鹿を学級委員にする方法ですね」
「あなたは馬鹿じゃありません」
「じゃ、何ですか」
「大峰さんよりはましなので」
「何がましなのです」
「強引さがない」
「大峰さんも強引さはないですよ、反論があればしっかりと聞くタイプで、しかも採用したりします。優れた人です。だから、私は信頼しきっていますから、会議に出る必要がないほどなのですよ」
「出ないというのが最大の反旗なのですよ、平山さん」
「そんなつもりはありませんよ。正反対だ。逆だ」
「今日の会議、もし欠席すれば、実行に移ります」
「だから、大峰さんに問題があるのなら、会議で言えばいいんですよ」
「それができないので、強行するしかないのです」
「そんなに嫌がられているのですか、大峰さんは」
「これを見てください」
「何ですか、この巻物は」
「連判状です」
「はあ。時代劇じゃあるまいし、とんでもない話だ」
「止めたいですか」
「当然でしょ」
「じゃ、会議に出席してください。このスイッチは今日の会議にあなたが参加しなかった場合に発動します。止めるには参加するしか方法はありません」
「分かりました」
 しかし、平山は出席しなかった。
 
   了

 
 


2018年3月10日

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