小説 川崎サイト

 

漫画家志望


「まんぐうわの画き方を教えてくださらんとかね」
「漫画ですか」
「そうです。まんぐうわです」
「そんなジャンルができたのですか」
「まんぐわでもいいです」
「漫画でしょ」
「そげんもん、わしにも画けますかいのう」
「ちょっと聞き取りにくいのですが」
「まんぐわっ家になりたいけん、国から出てきましたばい。まんぐわのいろは
ば教えてつかわっさい」
「画いたものはありますか」
「ありましぇん」
「画いたことは」
「なかばい」
「ではどうして、漫画家になろうと思ったのですか」
「儲けたいからです」
「あ、そう」
「まんぐわはどうやって画くのですか。そこから教えてつかわなっさい」
「広島ですか」
「九州ばい。爺ちゃんは岡山やけん」
「どうしてここへ」
「先生のまんぐわのファンですけん」
「それは有り難いけど」
「よかですか、弟子入りしても」
「それは困るけど」
「じゃ、画き方を教えてつかわっさい」
「あのねえ」
「はい−」
「自分でやりなさい」
「それが分からんとですから、教授のほどを」
「漫画の画き方なんて真似ればいいんですよ。それに画き方の本なんていくら
でも出ているじゃないですか」
「本じゃ、しかとしたことは分からんとです」
「僕だってしかとは教えられませんよ」
「よかです。人から直接習うのがいいと岡山の爺っちゃんが」
「それはいいけど、ペンとか持ったことは」
「Gペンとか、丸ペンでしょ、カブラペン」
「知ってるじゃないですか」
「そんなの近所じゃ売ってません」
「もう文房具屋に置いてないのですか」
「はい」
「じゃ、サインペンやボールペンや鉛筆で絵を画いたことは」
「子供の頃は画いてましたが、下手じゃけん、嫌いになって、ごぶさたですわ
い」
「いやいや、漫画家になろうという人が、画くのが嫌いでは」
「絵は嫌いじゃが、金は好きですたい。嫌いなこっても、銭ばなるんなら、何
でもしますけん」
「あのうねえ」
「なんですかいのう」
「漫画は儲からないですよ」
「金持ちの漫画家がいるじゃなか」
「ほんの一握りですよ」
「じゃ、その握りになりますたい」
「寿司屋じゃないのですから」
「寿司は好きですたい。シャコが」
「じゃ、寿司屋へ見習いに行った方がいいのでは」
「いや、文化人になりたか。作家になりたか。画家でもよか。小説家でもよか
けんよ」
「じゃ、今度、来るときは、鉛筆でもいいから漫画を画いて持ってきてくださ
い」
「その画き方が分からんとですから、来たのですたい」
「だから、適当に画いたものでよろしい」
「そう言われるのなら、画いてみるばい」
「じゃ、今日はこれで」
「はい、しかし」
「どうかしましたか」
「今夜泊まるところが」
「明日は雨かもしれませんねえ」
「あのう」
「一雨ごとに暖かくなるようです」
「あのう、今夜、わし」
「では、また」
「あのう、あのう」
 
   了

 
 


2018年3月17日

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