小説 川崎サイト

 

三層の町


「町の中に町があるのです」
「ほう」
「その町の中にさらに町が」
「じゃ全部で三つの町ですね」
「そうです」
「町中町でしょ」
「そんなものがあるのですか」
「一番古い町が外側に拡がり、ドーナツ化現象じゃありませんが、古い町を囲むように新しい町ができたようになります。最初の町の周辺には何もなかったのでしょ。だから拡がっただけ。しかし建物は新しい。町の施設も中央部ではなく、周辺にできる」
「じゃ、新しい町の中に古い町が残っているだけですね」
「これを町中町と言います。町の中の町」
「その新しい町の周辺がさらに拡がって、もっと新しいものが建ち並ぶと、三重でしょ」
「拡がりすぎ、面積が広くなりすぎると、別の町になります」
「はい」
「で、その町中町の中の町を見付けたのですか」
「以前行ったときは古い農家がありましたが、今は普通の町になっていました」
「しかし、痕跡が至る所にあるでしょ」
「全部建て替えたのでしょうねえ。道も整備されていましたが、どうしても無理なときは、そのまま残っていました。細くて曲がりくねっていたり、路肩に大きな石などがあったりと」
「それだけですか」
「いえ、その中央部が一番古い家並みだったのですが、それが一番新しくなりまして、その外周の町よりも新しくなっていたのです」
「さらにその外周もあるでしょ」
「その外周よりも新しいのです」
「ほう、じゃあ二層目が一番古いものが残っていると」
「そうなんです。ドーナツ化現象のように沈んでいた中央部に高いビルが建ちました」
「高層マンションとか」
「そうです」
「三層目が一番広いと思うのですが、その周辺はどうなってます」
「もう別の町の境界線で、それ以上拡張できません」
「すると、今一番古いのは第二層目」
「そうです」
「まあ、そのうち層も見えなくなるでしょうねえ」
「今なら、まだはっきりと三層に分かれていることが分かります」
「しかし、一番古い場所が一番新しくなり、三層目も古くなる。この一番外側の領域が一番古くなった場合、町の入り口が一番古くて、中程が次に古く、中央部が一番新しいということになる」
「それもまた古くなりますよ」
「そして、一番古かった中央部に住んでいた人達がいち早く世代交代し、一番若い所帯だったりする」
「有り得ますねえ」
「だから、町の入り口は年寄りばかりになる可能性も。そして中へ行くほど若い人が多くなる」
「ありえますねえ」
「まあ、そういう視点で見ていくと、町も生き物です」
「はい、そうですねえ」
 
   了


2018年3月23日

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