小説 川崎サイト

 

空腹


 大きな勢力同士がぶつかり合い、このまま行くと全面戦争になる恐れが出てきた。それを好む者、好まぬ者、様々。この機に征服してやれという者もあれば、互いに消耗し、第三勢力の草張り場になることを恐れる一団もある。どちらの勢力にも派閥があり、内部でもまとまりがない。なかには内通するものも出てきており、二つの勢力圏は泡立ち続けた。
「久しぶりでございますなあ」
「あなたと会うのは久しい。それまで平和だった証拠」
「左様でございますなあ」
「何と落ち着かないこと」
「実に」
「食べたいものであるのでしょうや」
「そうですなあ」
「何でしょう」
「腹が減っておるので、何でもよろしいかと」
「それはこちらも同じこと」
「じゃ、お互い様」
「どうですか、一緒に出掛けて美味しいものを食べに行きませんかな」
「ほう、それは結構な話でごじゃりますが、そのようなところがありますかな」
「ありますとも、そのうち鴨が葱を背負ってやってきよります。待ちましょう」
「はい」
 二人の老人、二大勢力の実力者。話はそれで決まった。
 二大勢力が小競り合いをしているところへ、第三勢力がやってきた。
「来ましたなあ」
「餌が来ましたぞ」
「そうですなあ」
 二大勢力はその時既に和解しており、一つにまとまっていた。どさくさに紛れて乱入してきた第三勢力を追い出し、さらに追いかけ、第三勢力の本拠地を占領した。
「これで美味しいものがいただけるので、お腹も減らないでしょう」
「そうですなあ」
 しかし、この第三勢力の領地は結構広く、そこでもまとまりがないため、本拠地を攻略しても分散した勢力が抵抗し続けた。
 そして第三勢力の本拠地は奪い返された。
「食べるだけ食べたので、もうよろしいでしょ」
「そうですなあ。仰山ぶんどったので、当分腹が空きません」
「そうですなあ」
 しかし、敵から奪ったものはもう食べてしまい、また腹が減り始め、また泡立ち始めた。
「困ったものですなあ」
「腹が減っては戦はできんと言いますが、腹が減るから戦になるのでしょうなあ」
「仰る通りです」
「さて、どうしましょう」
「原因は私らでしょう」
「はあ」
「私らが本当に和解すれば、二つには割れません」
「しますか」
「はい、和解しましょう」
「しかし」
「何ですかな」
「最初からそうしておれば良かったのでしょうなあ」
「仰る通りです」
 
   了



2018年4月4日

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