小説 川崎サイト



健康上の理由

川崎ゆきお



「理由?」
「そうです」
「理由を聞きたいのかね」
「それで納得したいと思います」
「じゃあ、君が納得できる理由を作ればいいんだな」
「作るのではなく、事実を教えてください」
「それはさっきから言ってるだろ。健康上の理由だ」
「どんな状態なのですか?」
「それ以上答える必要はないだろ」
「他に理由があるからでしょ」
「一身上の理由より丁寧だろ……説明が。一身上の詳細が健康状態だ。もう、それでいいだろ」
「いずれも本当の理由ではないと思います。本当のことを教えてください」
「聞いてどうするんだ?」
「納得したいのです」
「理由は言ったよ。それで納得できないのなら、あとは君の問題だ」
「僕に問題があったのですね」
「ほらまた取り違えておる」
「僕に問題があったのが理由ですね。それが本当の理由なんですね」
「くどいなあ。私がいつ君が問題だと言った」
「さっき、おっしゃいました」
「それ以上聞くのは問題だと言ったんだ」
「だから、問題は僕にあるのですね」
「それは別の問題だ」
「まだ、他に問題があるのですか」
「君は、どうして粘るのかね。簡単なことじゃないか。私の健康上の問題が理由だと何度も説明したでしょ。話はそれで終わっとる。だから、それ以上の詮索は君の問題ではないかと答えたわけだ」
「ですから、本当の理由は、そうじゃないと思うのです。だから、僕は納得できないわけです」
「納得してもらうよりないでしょ」
「すり替えです。問題をすり替えているのです」
「じゃあ、どう言って欲しいんだ」
「事実を教えてください。それで納得できます」
「パソコンが壊れたんだ。もう使う気がしない。一生使わんよ。あんなもの」
「それは困ります」
「だから健康上の理由だと言っただろ」
「直してください。いや、今は安いから買ってください。簡単なことです」
「ネットが繋がらんのだよ。だから、君とは取引できん」
「社長、それは簡単なことです。すぐに繋がりますよ。僕が面倒見ます」
「だから、もうそういうことが嫌になったんだよ。私が悪いのかね。私がうまく操作できないのが悪いのかね。故障の原因は私かね。そんな機械のことまで責任が持てんとよ!」
 
   了
 
 


          2007年5月25日
 

 

 

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