小説 川崎サイト

 

伏魔殿


「博士がおいでです」
「そうか。離れの別館へお通ししなさい」
「かしこまりました」
「このことは」
「はい」
「内密に」
「はい」
「と言っても漏らすのだろうなあ」
「滅相もございません」
「ここに来て長いのう」
「はい先々代から、いえ、もっと前からお仕えしております」
「まるで時代劇じゃ」
「はい」
 迷路のように入り組んだ邸宅、広い敷地は高い塀と堀に囲まれている。
 その離れの別館に博士は通された。
「まだ魑魅魍魎は出ますかな」
「毎日のようにな」
「日常化しましたか」
「わしもその一人かもしれん」
「今回はどのようなバケモノですかな」
「ゾンビだろう。生き返って暴れておる」
「この前は木乃伊が生き返ったとか」
「急に動き出したよ」
「もう慣れておられますなあ」
「そうだな。しかし何とかしてくれ」
「マジナイ程度では効きませんが」
「やってくれると落ち着く」
「大変ですなあ」
「しばらくの辛抱。そろそろわしもここから出たい」
「結界が張られておるのでしょ」
「そうじゃな。それが破れん。従って抜け出せん」
「そのうちバケモノ達も疲れてきます。待ちましょう」
「それしかないか」
「一応マジナイをやっておきます」
「そうしてくれ」
 博士は内ポケットから御札を出し、テーブルの下に貼り付けた。
「これで効くか」
「サロンパス程度の効き目はあるでしょう」
「気休めじゃな」
「ないよりはまし」
「誰が何を企んでおるのかは、わしには分かっておる。しかし手が出せん。何ともできん」
「物が古くなると物怪になります。人の企みも古くなると妖怪になります」
「それが自然の摂理か」
「そう思えば少しは気が楽になるかと思います」
「博士」
「はい」
「君も妖怪化しておらんか」
「きっとそうでしょ」
「博士」
「はい」
「これからは博士のことを妖怪博士と呼ぼう」
「はい、お好きなように」
 
   了
 



2018年4月13日

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