小説 川崎サイト

 

魔道の辻


 幾筋もの道の中の一つを選んだのだが、これは失敗したのではないかと高峯は思った。そういう思いは始終で、別の道を選んでいても、やはり同じことを思っていただろう。思うだけ勝手だが、勝手すぎることもある。道が二股なら選択肢は二つ。あのとき別の道をと思うときも、一つ。それが幾筋もあるとこれは数が多い。どの筋がよかったのかとなると、選択肢が多すぎるので複数の想像をしないといけない。もしあのときを何筋分も。
 選択肢が多いと違いが見出しにくい。違いがあるので選択肢があるのだが、違いに特徴があまりない。これという特徴で、それが明快なものほど相手しやすい。ある筋とある筋との中間のようなタイプは妥協点としてはふさわしいが、妥協しなくてもいい選択が好ましい。
「また道を違えたのかね」
「はい、毎度です」
「どの道を取っても道は道。道故に繋がっておる」
「はい」
「だからどの道でも良いのじゃよ」
「そうですか」
「道とは言えんような道もある。だからこれは道ではない。余地とか隙間とか縁と言ってもいい。これは道ではないが人が通ることができる。そういう道さえ選ばなければ、普通の道なら問題はなかろう。何処かに繋がっておる。そして別の道を選んでも同じところに出たりする」
「はい」
「正道と邪道がある」
「迷っているときは邪道が見えます」
「そこへ入り込んではいかん。後悔の度合いが違う。正道のどの筋を取っても正道。従ってそこで迷いがあってもまともな迷いで、不幸な目に遭っても普通の不幸」
「邪道とは魔道のような」
「そうじゃな。正道には魔は出んが、邪道には魔が出る」
「じゃ、普通の迷い方をしているときは大丈夫なのですね」
「魔が出て散々な目に遭うことを思えばいい。迷ったとしても普通の迷いごとなのでな」
「しかし、道ではありませんが、もの凄く良さそうな通り道が見えます」
「それそれ、それが邪道じゃ。もの凄く上手く行きそうな道として見える。だから入り込む。簡単そうであり、また都合も良い。他の道筋に比べ効率も良い。しかしそれは邪道」
「はい」
「邪道、魔道の分かれ道。そういうのがある場所を魔道の辻と呼んでおる。魔への入り口がある辻」
「何か、そちらのほうが面白そうですねえ」
「それを魔が差すという」
「はい、注意します」
「正道は退屈。煮詰まり、埒が明かん。そこに魔が差し込む。それだけじゃ」
「はい、正道内でやります」
「しかし、魔道の力は大きい」
「誘わないで下さい」
「魔も使いよう」
「しかし、取り扱いが難しいのですね」
「そうじゃな」
 
   了

 


2018年4月22日

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