小説 川崎サイト

 

白雲斉


「ペンパン草が生えておりますぞ」
「人は住んでいないのかもしれません」
「この里には空き屋は一つもなかったが、一戸あったか」
「そのようで」
「しかし、見付からなかった」
「空き屋ですかな」
「いや、人」
「もう出尽くしたのでしょう」
「この里は知恵者の産地で何人もいると聞いたのだが、もういない」
「既に取られたのでしょうなあ」
「引き返すか」
「少しお待ちを」
「どうした」
「空き屋ではないようですぞ。人が動くのが見えました」
「そうか」
「それに着物が干してあります。住んでいます」
「念のためじゃ、訪ねてみよう」
 二人の武士が雨戸を叩くと、中から顔まで髭のある真っ白な男が出てきた。
「まさか、白雲斉先生では」
 白雲斉とは屋号で人の名前ではない。軍師のようなものだ。知恵者の中でも、ランクが高い屋号。つまり雲の上にでもいそうな仙人のような人。
「是非、当家に来てもらいたい」
 この白雲斉、実はただのモドキ。つまり、擬態のようなもので、本物ではない。
 二人の武士も何となくそうではないかと思った。この里の知恵者は、もう他家が雇っているはず。残っていたこの白雲斉、誰も買わなかったのは、それなりの訳があるためだろう。しかし、手ぶらで帰るのも何なので、お連れすることにした。
 この時代の軍師は占い師で、出陣の日や方角などを占う程度。そして戦場でもただ祈祷したりする程度。負けそうになると、引き際を教えてくれるし、押しているときは鳴り物を使い鼓舞する。
 この里に数人にいたという知恵者は、このタイプではなく、指揮官を補佐するタイプ。それらは既に他家が取ってしまった。
 白雲斉に手を出さなかったのは、昔からの祈祷や占いをするタイプだったので、値が付かなかったのだろう。
 しかし、二人の武士が連れ帰った軍師白雲斉は効果があったのか連勝した。
 小賢しい知恵よりも、占いの方が士気が上がったためかもしれない。
 
   了

 


2018年4月23日

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