小説 川崎サイト

 

胸焼け小焼けで日が暮れた


 高村は食べ過ぎた。昨夜買ったフライものが残っており、それを朝に食べた。朝は朝で用意するものがある。高村が考えた朝定食だ。これで充分なのだが、残ったフライものを食べないともったいない。そのことを忘れていたのだが、食べ始めたときに気付いた。それで冷蔵庫から取り出し、温めて一緒に食べた。おかずが多すぎる。フライものだけ余分、余計。計算にない。
 高村は朝はしっかりと食べるのだが、ここで油っこいフライものを加えると、しっかり過ぎるどころか、あとで影響する。
 しかし、捨てるわけにはいかないので、食べきった。すると、即座に来た。胸焼けだ。朝から胸焼けでは何ともならない。これが夕食ならしばらく横になれば済むことで、そのまま寝てしまってもいい。もう用事は全部片付いたあとなので、それができる。しかし朝からではこれから一日の仕事を始める矢先。ここで横になれない。またそんな習慣もない。
 胸焼けは頭に来る。頭痛ではなく、頭が回らなくなる。考え事ができない。それにだるくなり、眠くなるので、頭が休憩してしまう。
 高村は朝に大事な仕事をする。一番難しいところ、集中力と体力が一番必要なことを、真っ先にやる。これが仕事術になり、もう長い。嫌なこと、プレッシャーの掛かることから始めれば、あとが楽だ。
 その朝に問題が生じた。病気なら仕方がないが、たかが胸焼け。ここはそのまま進めるしかない。
 しかし単純な作業なら何とかできるが、決め事がいくつもあり、それをこなすには、この頭では無理だとすぐに気付く。
 ここは胸焼けが治まるまで、横になるに限ると、ゴロンと寝てしまった。さっき起きたばかりなので、寝足りているのか、眠りが浅い。頭が眠ってくれないのだが、起きているよりも楽。
 胸焼けのときの寝る姿勢があったことを思い出すが、左向けか右向けかは忘れた。上を向いて寝るのが一番いけないことだけは覚えていた。
 高村は心臓を下にして左向きで横たわる癖がある。しかしそれは本当に寝るときに限られている。昼寝はたまにするが、それは仮眠で、上を向いて眠る。本寝状態に持ち込まないためだろう。
 泥のような雲がゆっくりと回転しながら、幾重にもドーナツを描き出した。ちかちかするものが周囲にある。光り物の魚に虹が架かっているようなものだ。
 寝付けないときは夢ではなく、そういった模様のようなものが浮かび上がる。それをじっと見詰めていると、やがて人の顔になり、さらに見詰めると怖い顔になる。しかも色味がなく、白黒のコントラストがどぎつい。
 今日はそこまで行かないうちに眠りに落ちないことが分かり、さっと起きてしまった。横になっている方が苦痛なため。
 胸焼けは何とか治まったようなので、仕事を始めることにする。
 しかし部屋が暗い。朝、晴れていたのだが、曇ったのだろうか。夜のように暗い。蛍光灯を点けても明るくない。
 うたた寝後なので、目がしっかり開いていないのだろうか。
 試しに窓際へ行き、カーテンを開けると暗い。
 夜だ。
 夜まで眠っていたようだ。よく眠れるものだと高村は感心した。きっと疲れていたのだろう。
 
   了



2018年4月27日

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