小説 川崎サイト

 

土讐


 子供が妖怪を見たと誇らしげに語り出した。場所は妖怪博士宅。ここなら思いっきり語れるのではないかと大喜びの大はしゃぎ。
 実は妖怪博士、子供が嫌いだ。それが小さければ小さいほど幼ければ幼いほど気味悪がる。世間の人情とは違っている。赤ん坊などは以ての外。生まれたてなど、見るとぞっとする。いずれも妖怪じみて見えるのだろう。胎児になると、もう駄目だ。
 そんな妖怪博士だが子供向け雑誌に妖怪の話を書いている。殆どは担当の編集者が代わりに書いているのだが。これは本来の仕事ではないためと、偶然そういうところの仕事しか来ないため。
 これで一つネタが出来たので、助かるのだが、語っているのは子供。これは嘘だとすぐに分かる。そう頭から決め込んでいるのは、子供は正直でないためだ。嘘ばかりつく妖怪のような存在。だからその先入観が先に走る。
「川にかな」
「そうです。もうコンクリートで固めたドブ川ですが、その中にいたのです」
「そんな排水路のよう中では魚もおらんだろ」
「魚はいませんが、雑草が生えています」
「コンクリートじゃろ」
「水が流れている端っこに泥が溜まって、そこから」
「ああ、あるのう」
「それと繋ぎ目や割れているところからも草が伸びています」
「つまらんものをしっかりと観察しておる。えらいのう」
「うん」
「それで妖怪はどうした」
「そこに大きな虫がいました。大きな亀ぐらいの」
「じゃ、亀じゃろ」
「大きさはそれぐらいですが」
「亀の子束子が流れついたのじゃ名」
「違います。お爺ちゃん」
「私はそこまでまだ老けておらん」
「足が一杯あって」
「じゃ、カニだろ。何処かで飼っていたものが逃げた」
「違います。大きな頭をしていました。顔がありました」
「じゃ、タコか」
「違います」
「で、その妖怪、どんなことをしていた」
「え」
「だから、何をしておった」
「ずっと僕を見ていました」
「ほう」
「何か話しかけるような」
「うむ」
「でも怖い顔をしていました」
「それから」
「草の中に入っていきました。そして消えました」
「ヒビ割れとか、切れ目から出ている程度の草じゃろ。そんなに茂っておったのかな」
「ぜんぜん」
「では何処に身を隠した」
「知りません。だからこれは何だろうかと思い、博士にお知らせを」
 妖怪博士はしばらく本朝草木図鑑などを頭に描きながら、イメージ検索をしていたのだが、子供がそれを見て笑い出した
 思案中の妖怪博士の顔がおかしかっためだが、ここが妖怪博士が子供嫌いの主因。そんなにおかしな顔にはなっていないのに、無理に笑ういやらしさ。これが大嫌い。
「ドシュウじゃな」
「ドジョウ」
「土と、復讐の、讐と書き、土讐」
「ふーん」
「草の根にいる妖怪でな。昔は草原、野原にいるとされておる。草が生えておるところなら、何処にいてもおかしくない」
「僕が見たのは土讐なの」
「草とくっついておるが、実は土の妖怪。川底の泥の中にもおる」
「ふーん」
「分かったか」
「面白くありません」
「君が見たものに近いのはそれじゃ」
「でも土なんてないし」
「泥が溜まったり、土砂が溜まったり、ヒビの入ったところなら土は近い。セメントの下は土じゃ。いくらでも土はある」
「でもその妖怪、怖い顔をしていました」
 妖怪博士は人がそういう工事をして、地肌を覆うようなことをしていることを物申す気はないので、その説明は省いた。
「分かったかい」
「面白くない」
「土讐はその名の通り、復讐系。近付くと怖い目に遭う。面白いとか面白くないとかの問題じゃない」
「分かりました」
 子供は丁寧に礼をして、帰っていった。
 見てもいない妖怪を勝手にでっち上げる嘘つきな子供。今度来たら何か悪いものでも憑けて帰してやろうと妖怪博士は思った。
 
   了

 




2018年5月13日

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