小説 川崎サイト



休日会社

川崎ゆきお



「心のケアが必要なんです」
「そうとは見えんが」
「苦しんでいるのです。本人でないと分からない症状なのです」
「怠けたいだけじゃないのか」
「とんでもない」
「休みたいだけなんだろ」
「心の病です」
「医者に行ったのか?」
「怖くて行けません。仮にもし、行ったとしても判定は同じだと思います」
「判定?」
「医者の判断も同じだと」
「じゃあ、診断書もらって来なさい」
「それは、ちょっと」
「医者も馬鹿じゃない。仮病を見抜くぞ」
「何が仮病なんですか! こんなに心の傷で苦しんでいるのに」
「仮病のネタを増やしたんだな」
「このままじゃ過労死だ」
「君がいつ過労した」
「僕にとっては過労です」
「ここの仕事は楽なはずだよ。ノルマもないし、評価もしない。来れば給料は貰える。君の代わりはいくらでもいる。一人で責任を背負うこともない。それで心のケアがいるのかね」
「でも、鬱なんです」
「脅かそうとしても駄目だ。仕事が原因とは言えないはずだ」
「では、僕のこの精神状態は何なのでしょう」
「知るか!」
「突き放された」
「君自身の問題で、それは口に出して言うことじゃない」
「もしかして……」
「何か?」
「働き足りないのかもしれません」
「過労の反対か」
「はい、退屈で退屈で」
「しかし、やってもらう仕事はないぞ」
「仕事不足なんですよ」
「楽でいいじゃないか」
「そう思いますか?」
「わしは居心地がいい」
「でも、この会社、何をしているんでしょうね」
「それを考えると怖いねえ」
「明日、消えているかもしれませんよ」
「おいおい、不安になるじゃないか」
「ありえんですよ。この状態は」
「それまでの命だ。それまではのんびりできる」
「で、今日の作業は?」
「ない」
 
   了
 
 



          2007年6月1日
 

 

 

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